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ショートストーリー〜「志願」

「じゃあ、行ってくるね。」
彼はそう言って出発した。

愛する妻に自分の決意を告げたのは昨夜のことだ。
世界のあちこちで紛争が起こっている。
戦いは何も生まない。次の更なる戦いを生み出すだけだ。
皆わかっているはずなのに、なぜ愚かな戦いを繰り返すのだろう。
彼はそれがどうしても許せなかった。

「僕にしかできないことなんだ。
 行かせておくれ。
 他人事とは思えない。
 君とやがて生まれてくる我が子を守るためにも、この戦いを終わらせた 
 いんだ。」

ついこの間二人は一生愛し合うと誓い、愛の巣が出来上がったばかりだった。
妻はその生活が崩れ去ってしまうのが怖かった。
ここにいれば安心して暮らせるのに、なぜ夫は自ら戦地へ行こうとするのか。
しかし一晩かけて彼の決意が固いのを悟った妻は、快く彼を送り出すことに決めた。
朝、彼の厚い胸に顔を埋めて溢れそうになる涙を堰き止めて、そして言った。

「行ってらっしゃい。
 絶対に絶対に、帰ってきてね。」
「約束するよ。
 絶対に帰ってくるよ。」

集合地点には、彼と同じように勇気ある者たちが大勢集まっていた。
見つめる先には戦火が待っている。

「さあ、行こう。」

どこからともなく集まったたくさんの鳩たちが、一斉に羽ばたいて大空に飛び立った。
たったひとつ「平和」という荷物だけをその力強い翼に載せて。



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