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【レビュー】Alcest『Les Chants de l'Aurore』(ポストブラック/ブラックゲイズ)

Les Chants de l'Aurore(夜明けの歌)
Alcest

【概要】
フランス産🇫🇷ポスト・ブラックメタル/ブラックゲイズの元祖であり本家本元総本山であるAlcestの新譜『Les Chants de l'Aurore(夜明けの歌)』は2024年6月21日にリリースされました。

【レビュー】
1. Komorebi-(木漏れ日)
曲名の様に陽の光に照らされている様相を描いた様な非常に恍惚とした明るい楽曲であり、アルバムの一曲目としても持って来いの曲であると想います。

2. L'Envol-(飛翔)
YouTubeにてドラマチックなアニメーションのMVが公開されている楽曲。曲名に『飛翔』とある様にこちらも伸び伸びとして、空に羽ばたいている様相を描いた様な多幸感の流れを汲む曲でありつつも、Komorebiとは異なり、夕陽を眺めて佇んでいる世界観を感じて安心感を覚えます。再びAlcestの1stアルバムに回帰した優しいシューゲイズなサウンドで"あの頃"を懐かしむ気分になったり。楽曲の後半にてNeigeによる咆哮(ブラックメタル・シャウト)が導入されますが、それは威嚇表現ではなくて今は自分のそばに居ない愛しいパートナーの恋人を求めて叫んでいる様な寂しささえ覚えます。明るさと物寂しさが同居した楽曲です。

3. Améthyste-(アメジスト)
イントロのトレモロリフで始まるこの楽曲はコーラスが実にエモーショナルで感傷的であり、神々しいクリーンVo.と同時の咆哮に乗せて疾走する流れは実に清涼感に溢れており、そのサウンドを生み出すセンスと音楽的手腕にリスペクトを示してしまいます。

4. Flamme Jumelle-(ツインレイ=運命の相手、魂の片割れ)
穏やかで牧歌的なバラード調のミドルテンポな楽曲です。煌びやかなシューゲイズ・サウンドに包まれており、のんびりと聴いていたくなる世界観です。ツインレイとはスピリチュアル用語で『魂の片割れ』や『この世に1人しかいない運命の相手』を指します。前世から現世へ転生する際にひとつの魂が分離したとされており、もともと同じ魂をもった者同士、自分の半身のような存在の事を言います。そんなロマンティックなこの楽曲はYouTubeのMVにおいても2人のカップルと想われるダンサーが躍動感豊かに踊っています。

5. Réminiscence-(回想)
不思議な感覚さえ覚える浮遊感溢れるピアノで始まるイントロであり、チェロの様に重く響く弦楽器のヴィオラ・ダ・ガンバと言う、とても古い楽器を用いた楽曲。和訳に『回想』とある様に今までの人生や前世であったことをふと思い出して色々な事が走馬灯の様に頭を流れていくようです。間奏曲の様ですが、Neigeにとっては深い意味があり、イントロのピアノはNeigeの祖母の物であり、Neigeの家族の楽器を用いてこの楽曲を収録したのだと証言しています。

6. L'Enfant de la Lune-(月の子)
日本人と想われる女性による『今宵、星達は躍る…、、、』等の日本語の詩の朗読から開幕するこのアルバム最後の"キラーチューン"は詩の朗読が終わった途端にブラストビートと共にクリーンVo.で爆走していきます。何かに急かされてか、何か事情があって切羽詰まっているのか、自分のパートナーの恋人を求めてか、何かに追われる様にこの曲はアルバム最後のキラーチューンとして存在感を現しています。そんなこの楽曲の世界観はもう既に壮大なクリーンVo.が響き渡る月夜が照らす時間を迎えており、クライマックスまで迫りつつあります。

7. L'Adieu-(別れ)
アルバムのラストトラックであるこのアコースティックな楽曲『L'Adieu』は古風な英語の意味でFarewell(さらば)を現すものであり、アルバム序盤〜中盤で一緒に戯れていた運命の相手(ツインレイ)とのお別れを暗喩的に示している様相を現している様な非常に艶やかなアコースティックギターサウンドにグッと来てしまいますね。

【おまけ話】
AlcestのNeighはインタビュー記事にて日本特有の、あらゆるものには魂が宿るとする神道及び古神道におけるアニミズム信仰(精霊崇拝)に惹かれていると証言しており、自身も『子供の頃、何かとつながっているような感覚があった。子供には特別な感覚があると思うんだ。キリスト教的な宗教を連想させるから天国とは呼びたくないけど、人間的な経験をする前のような、僕たちみんなが来た場所、現世と前世、2つの人生の間にある種の安らぎの場所のような、魂が休まる場所とのつながりのね。』と語っている通りNeigeは相当スピリチュアリズムに精通したミュージションなのでしょう。

本作の収録曲『Flamme Jumelle-(ツインレイ=運命の相手、魂の片割れ)』とある様にスピ系ガチ勢ではないと知らないワードをポンと新譜のアルバムに入れてしまう程、Neigeが語る子供の頃の"スピリチュアルな体験"は大人になった今でも忘れられないものなのでしょうね。

Alcestの記念すべき1stアルバム『Souvenirs d’un autre monde』のジャケ写の笛を咥えている少女は今作にて立派に大人の女性になりまた再び笛を吹いて新譜のアートワークを飾っています。

───なぜ、”Spiritual Instinct” のダークでヘヴィな世界から離れたのでしょう?

Neige
『そこから離れる必要があったから。いつもツアーをしていると、一人でいることがなくて、いつも人と一緒にいる。だから、自分自身との接点を失うのはとても簡単なことなんだ。最初のインスピレーションは何?この音楽プロジェクトを作ろうと思ったきっかけは?
“Spiritual Instinct” で聴くことができるように、僕は少し混乱していて、フラストレーションを感じていたんだと思う。そして、自分のスピリチュアリティと再びつながることがどうしても必要だった。あのタイトルは、僕が少し混乱していた時期でさえ、たとえ迷いを感じていたとしても、自分の中にある内なる世界やスピリチュアリティを感じることができたという意味なんだ。それは消えることはなかった。パンデミックで僕たちは一区切りをつけ、このバンドに対する主なインスピレーションは何だったのか、このバンドで表現したいことは何だったのか、本当に集中し直した。そして、最初のアルバムにあったコンセプトに戻りたいと気づいたんだ。最初の2枚のアルバムは、この別世界について歌っているからね。光と調和というもうひとつの世界に戻ってきたんだ』

Alcestの世界中での活躍ぶりを見ていると、メタルの音楽性とは必ずしもヘヴィでダークである必要など無いのかも知れませんね。

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ここまで読んで下さってありがとうございました!🙇‍♂️

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