何度だって、毎晩だって。貴方を想って眠りにつくよ。
忘れられない、出逢いがあった。こんな書き出しがありきたりだなんていうのは分かっているけれど。私には推しがいる、なんて書き出しも。他の案も何もかも、なんだか彼には似合わない気がした。何回も書いて何回も消してそうやって書いたこの文章も、忘れたくないと思えるから。
その頃の私は、今でもあんまり変わっていない。出逢ったころ、私は凄く苦しかったけれど、なんだかんだ苦しいままもう2年ぐらい過ぎようとしている。
私達には確かめようもない話だし、2年間ずっと見てきて、気軽に触れていい話ではないことなんてとっくに知っている。その話で苦しくなる人がいることも。だけどこれは私が彼の話をする中で避けられないことだから許してほしい。今日だけは、縋るようにこの話をすることを、許してほしい。私の弱さを、許してほしい。確証がないだけに、とっても言い出しにくい話だけれど。私がこの話をする理由は、私がこの話に縋っているからだ。
「拒食症らしい。」そんな噂を目にした。
分からない、もちろんそんなことは私達には分からない。証拠にされていたのは、複数枚の画像だった。
「吐きだこがある。」そんな話だった。
一応本人からは一時期「マイクにぶつけた」だとか、なんかそういう感じの言い訳が出ていたようだ。だけど、だいぶんと長く、彼は傷だらけだったように私は思う。
診断なんて持っていないから、私は自称してはいけないのかもしれない。生理は気持ち不規則だけど来ないわけではないから、私は当てはまらないのかもしれない。辛いと言うと、私の方が辛いという人がいるかもしれないから。
だけど私も、ずっと太ることが怖かった。
今は体重も30キロ台中盤で落ち着いているからだいぶ考えずに居られているけれど、それでも40キロを超えたことがない私は、超えたときのことを考えるだけで悪寒が止まらなくなるぐらいには、不器用だ。
吐いたら楽になる、そんな言葉が気休めに過ぎないことは分かっているけれど。何回も吐きたくなって、どうしようもなくて、ネットの記事はあらかた読んだ気がする。結局残念ながら理性を飛ばすことはできなくて、というかただでさえ食べ物の風味が苦手でしょうがないのにそれを逆流でもう一度味わわないといけないことが感覚的に我慢できなくて、食べて2時間以内にチャレンジしたことはないけれど。
夜の暗闇に耐えられなくて、私は何回も手を突っ込んだ。喉奥が痛くなることも、胃液が喉をせりあがってくる感覚も、全てが私を作っていた。そうしないとやっていられなかったし、どんなに否定されたとしてもそれが私だった。
だから彼に惹かれたのだ。彼が、薄暗く見えた気がした。彼の色はまるで「灰青」色だった。彼は、まるで死んでいるようだった。もっと、見たいと思った。どす黒い彼の心を、もっと見つめたいと思った。真正面から向き合ってみたかった、それはきっと私というものに。
彼は。好きだよと誰かに言って、それだけで満足できるような人ではない。アイドルなんていう仕事は大体のところそれが仕事だというのに。好きだよと言って、私もと返されて満足できるような人でもきっとない。彼はきっと、好きだよと言って私もと返されても、好きと言ってくれなかったことを落ち込む人だ。愛してると返しても、僕が好きだと言ったからだと拗ねる人だ。
彼は、好きだよと言ってもいないのに、相手の愛してるを聞きたがるような節がある。
一日置いて、何が書きたかったのかよく分からなくなった。書いているときの苦しさの色を忘れてしまった。筋書なんて毎回ないから、中断すると書けなくなってしまう。だけど、今も苦しいことには変わりないから。今の私で書いてみようと思う。
彼は、整形している。笑ったときの皺の出方とか、そんなところでふと分かるときがある。彼は芸能界で生きているから、自分から言ったりはしないし、あれだけ整った顔を見たら初見でも整形でしょ、と言うだろう。彼は、今でも持続力の低い整形を繰り返している。もう既に、実は過去に一回だけ、の域はとっくに超えている。
彼は少しだけ極端だけど、韓国の芸能界のなかでそれは別に珍しいことではない。それなのに私がなんとも言えない気持ちになってしまうのは、彼の初期の頃の顔が、整っていたからだ。デビュー前から彼らは映像を公開していて、練習生に初めて仲間入りしたころの映像だって残っている。そこに写る彼は確かに二重の線が見えにくくて、少しだけ鷲鼻だけど。確実に整っている。贔屓目とかそういうんじゃなくて、全然かっこいいのだ。
だから、悲しくなってしまう。彼の、顔への執着の無さが。新しい整形の跡が。明らかな整形が見えてしまうから。他のメンバーを見る限り事務所は新しい整形に積極的ではないようだから、彼の整形も初めの何回かは別としてもう強制されてはいないのだろう。それでも彼は整形に手を出す。そのことが悲しい。鏡をみて、彼は何を思うのだろう。彼を整形に掻き立てているのが何なのか考えるだけで悲しくなる。もう、鏡に映る自分は本来の姿ではないのだろうか。自分じゃないからいいのだろうか。投げやりなのだろうか。
また一日置いてしまった。だけど、また書き続けてみたいと思う。
彼が鏡を見たとき、そこに映るものは彼ではないのかもしれない。彼の整形を見ていると、彼は自分をキャンパス程度にしか考えていないのではないか、なんて思う。きっと油絵とかみたいに重ねて重ねて、まだ足りないって。ここもあそこもまだ汚いって。確かに整形をしたら整形崩れだってするし、一生付き合っていかないといけないんだろうとは分かってる。彼からすれば、重ねることは増やすことは、修復とさして変わらないのだろう。
彼は他のメンバーの誰よりも、後からダンスも歌も始めた。何もなくて、何も知らない、本当に普通の人が、スカウトされてただ練習生になった。ダンスも歌も、幼い頃から舞台に立ってきたメンバーもいる中で18歳からなにもかもを始めた彼が見劣りしないのは、彼の必死の努力の成果だ。だけど、彼は上手くできないという。ダンスもいつも覚えるのに人一倍時間が掛かって、と彼はいつも言う。他の人が言う、自主的に休憩時間も使って必死に食らいついていることは、自分からは絶対に言わないくせして。歌うときも、いつも不安げに歌う。ソロパートではいつも前を見ようとしないし、必死にメロディーラインを追っている。全然外さないのに、いつも外しそうな顔をする。外した後みたいな顔をしている。
そんな彼だから事務所側がビジュアルを売り出したのは必然なのかもしれない。だけど、彼はいつも怖そうで、褒められても苦笑いしているようにしか見えなくて。
彼は、私達が想像できる以上にメンバーでできているのだと思う。きっと、要領が良くて、頭がいい本来の彼と、泣きながら死に物狂いでメンバーに追いついたメンバーの中にいる彼は、全くの同一人物ではなくて。私達が友達に抱くのとは全然違う、感情がそこにはあるのだろうと思う。要領が良くて人見知りの彼は、きっとメンバーと過ごすようになるまでここまで弱い顔をしなかっただろうから。
彼はいつも、メンバーのことを愛しているという。本当に、もう、ビックリするぐらい。もちろん、私達が普通に想い描く愛していると、彼が口にする愛しているは違って。だから私はその言葉を耳にするたびに、その言葉に彼がのせている意味を考えてしまう。朝起きて、夜寝るまで、精神的にどころか物理的にまで一緒に居るメンバーのことを、愛しているってどういうことだろうか、と。
きっと、彼の日常には、ほんとにメンバーしかいない。彼がラジオなんかで話す話には、ほんとにメンバーしか出てこない。彼の楽しかったことも、気になっていることも、新しい趣味も、全部メンバーしかでてこない。ここまでは他のメンバーにも言えることだ。だけど、彼らはグループを愛しているとも、ファンの皆さんを愛しているともいうけれど。メンバーのことを愛しているとはなかなか言わない。いや、ほとんどと言っていいかもしれない。このメンバーと言う塊を愛しているとは言ったとしても、それはメンバー一人一人を愛しているというのとは少し違うように私は感じる。
彼はメンバーが消えてしまうとでも思っているのだろうかと、時々思わせられるときがある。明日にでも、一人で残されるとでも思っているのかと。
私達ファンは、夢を見せてもらっている。彼らに。それは忘れてしまいそうだけど当たり前のことだ。彼らは私達に夢を見せるのが仕事で、そのことにいつだって全力だから。私達は彼らがなんでも見せてくれているように錯覚してしまうけれど。彼らはいつも本来は私達に次に見せるものばかりを考えているのだから、私達は彼らの過去の努力しか知らないのだ。今、今日のことなんて、本当は全然知らない。私達は、彼らが全力で見せてくれるものにいつだって踊らされていて、時には踊らされているフリをして。
私達は、彼らが永遠だと思い込んでいる、フリをしている。それは私達が彼らのファンだからだ。彼らが、私達が彼らを永遠だと思うことを願っているから。だけど。彼らが私達に見せない日々というのは、確実に存在していて。そこで彼らが永遠を演じる必要は全くない。彼らには、彼らの人生があって、彼らには彼らがしたいことがあって。彼らは、誰にも見られていないときに永遠という言葉に囚われる必要は全くないのだ。悲しいけれど。そのことに、本当は皆気付いているのだろう。
きっと彼らは私達に見えないところでは、永遠なんて夢物語は信じていないのだろう。なんなら終わりだって決まっているのかもしれない。そんなこと、私達は思いたくもないし、彼らも思わせたくはないのだろうけれど。仕事中でもないときに彼らが終わりを決めていても、それは腑に堕ちるぐらい当たり前のことだ。彼らがアイドルをしてお金をもらう以上、そんな事実があったとしてもそれは当然のことだ。
きっと仲のいい夜ばかりではない。だからなのかもしれない、彼が、何も知らない私達が驚いてしまうぐらいメンバーに縋っているように見えるのは。必死で引き留めようとしているように見えるのは。愛しているに、恐ろしいぐらいに対等性を求めるのは。愛しているから、僕を愛してほしいなんて。ねえ、愛してるでしょ、と聞く彼が「行かないでよ」と言っている気がして。「ほら、ずっと愛してくれるでしょ」と泣いている気がして。
何日も書けなくて、ずっとずっとこの文章のことを考えていた。だけど、今日で終わらせようと思う。たとえ満足のいく終わりにはならないとしても。この文章はまだ途中なのだから。この文章としてはここで終わらせるけれど、私も彼も、生きていて、この文章の内容はこれからも続いていくのだから。ドキュメンタリーが始まってしまったら、今の気持ちを忘れてしまいそうだから。もう今には戻れないから。私の今、を残しておくために。
私は、彼の「色」が好きだ。彼の色はまるで「霞色」だ。私はそのことを誰にも知ってほしくないとかそういう意味で愛しているのではなくて。もっと、読みたいと思う。新しい彼の姿を見るたびに、好きな作家さんの小説に新刊が出たみたいな気分になる。いつも鬱々しくて、読んだ後しばらく放心状態になると分かっているのに一夜で読破してしまう小説のような。私が知りたいのだ。私が読みたいのだ。それが私の「好き」という言葉の意味だ。
余裕を必死に作り出す他のメンバーのことは、心の底から尊敬している。彼らは余裕があるように振舞うことが上手くて、互いへの配慮を忘れない。
だけど、私には余裕が作れない彼が愛おしい。他の人を気遣える他のメンバーは勿論人として素晴らしいけれど、私は「僕は、僕は」と必死な彼が好きだ。「ずっと」なんてものはないってことを知っていてもなお「ずっと」を求める、自分が大切にしているものを、一つだって手放したくなんかないと願うようなその少しだけ欲張りなところがいじらしい。誰かを庇って自分までコケてしまいそうな、そんな彼を、ハラハラする物語を、もっと読みたいと思う。ベットの脇に置いておいて、何回でも読み返していたいと思う。
「僕にとってはこのチームが全てなのに、簡単に言わないでほしい。」
そんな彼に惹かれた。それをメンバーに言う彼に、私は惹かれたんだ。僕に出来ることは何ですか、と焦るような彼の色がまるで「秘色色」みたいで。
私達は彼らを知らない。それはファンだからだ。私達は、彼らが見せたい彼らしか知らない。芸術作品としての彼らしか知らない。だけど簡単に言えないからこそ私は文章にしたかった。そう言ったら彼はどう思うのだろうか。簡単には言えないよ、でもさ。って。
彼らに見せてあげたい景色がある。彼らに見て欲しいものがある。あわよくば私も一緒に見ていきたいと思う、だからさ。って。