メイショウ松本好雄氏を通して見る人と馬

 かつてメイショウサムソンというターフを駆け人を熱狂させた馬がいた
生涯成績27戦9勝 うちG1成績1着4回2着3回
紛れも無い偉大な馬であるが、その馬のオーナーが松本好雄氏
馬を中心とする競馬界で人との繋がりを大事にする大馬主の1人である

 松本オーナーに対する人物像というのは数多くいる競馬ファンからしても大小差があり、若年層で馬主に興味のない人からは「誰?よく知らない」という人もいるだろうが冠名「メイショウ」を知らない人はいないと思う
そして、これから書かれる事の多くはコアな競馬ファン、古くから競馬を見て来た人にしてみれば既知の話ばかりであり、過去何度も多くのブロガーがまとめあげてきた内容ではあるが、なぜ私が今更そんなことを書くかというのも松本オーナーその人の人柄に惹かれ「多少なりとも競馬ファンとして松本オーナーに触れた事実が欲しい」と思い立っただけであるという事を先に言っておきたい

 松本オーナーの有名な特徴として現在国内で活躍している良血馬(簡潔に言ってしまえば億もする高額な馬)は買わないという信念を持たれている
この事から馬券トンチキの間では「メイショウは足りない、いらない」「地味で安い馬を買い続けるオーナー」という声が出ているのも事実だが
そんな話を目や耳にする度に私の「心の奥底に眠る以蔵」が立ち上がり、トンチキ共を一刀に切り伏せ捨て置きたい衝動に駆られるのも、松本オーナーの人柄を知る他ならない

 そもそも何故そんな安価な馬ばかり買うのかというと、大牧場ではなく中小規模の牧場との交流や繋がりを大事にしているからと言われており
本人の弁によると「出自が機械屋であるから商売で高額な何億もする機械を購入する時は何年も色んな角度で検討して決める、なので道楽(である競馬)にほいほいと何億もする馬を何頭も買う事はできない。人との繋がりで巡り会った馬がある日思わぬ好走をしてくれる。私はそれだけで十分」と言い切っている
私はこのエピソード1つ取って見ても松本オーナーは桁違いのギャンブラーでありロマン溢れる人だなあとしみじみ思うし、松本オーナーの座右の銘「人がいて、馬がいて、そして人がいる」を体現されている人情家なのだと感じる
 安価な馬を買う理由について公言されているのは上記の通りだが、私の憶測で「道楽にジャブジャブと金をつぎ込む会長を見る社員の心情」も配慮されてるのかなと考えてしまう
里見オーナーとは違うんだぞ、と
 
 そんな人との繋がりを大事にする松本オーナーなので中小規模の牧場の方々、関係者の方々からは尊敬の念を持って「メイショウさん」と呼ばれている
なので私も敬愛の念を込めて以下「メイショウさん」と書き記させて頂きたい

 メイショウさんのもう1つ大きな特徴として、私が生まれる以前1974年から長く馬主をされているにも関わらず一貫して「私は馬の事が全く分からない」と言い、調教や騎手を誰にするか口出しは一切せず購入する馬の選別まで調教師や牧場の方のおすすめを買っている(馬券を選ぶのは大好き)
ある時は競りで売れ残ったから買ってほしいと牧場側から頼み込まれた馬を引き取っていたり等お人好しにも程がある気もするが、裏を返せば弱小牧場の生活を身銭を切って支えているという事実がある
(余談だが競馬ブームが去り日高の弱小牧場が経営難に陥った際に大きく手を差し伸べたのは社台Gであり、日高の方々が社台に感謝しているという事実も念のために記載しておく)

 一見すると「騙されやすそうな人の良いおじいちゃん」にしか思えないメイショウさん
しかし口を挟む時にはきっちと男の筋目を通す人物である、そんな(あまりにも有名すぎる)エピソードを敢えて幾つか書きたい

 メイショウマンボという、つい最近(2017年4月8日)現役を引退した牝馬がいた
主戦騎手は武幸四郎、もうお分かりだろうが2013年オークスの出来事である
デビュー直後は華々しい活躍をしていた幸四郎氏(なんとなくマンボとの人生とも重なる部分がある)だが
2009年6月から同年11月にかけては118連敗、勝ち星からは遠ざかり兄の豊さんからも心配され2013年時点ではG1勝利も7年ほど遠のいていた言わばドン底だった
そんな幸四郎氏に手を差し伸べたのがメイショウさん
古くからは武邦彦氏と仲が良く家族ぐるみで交流があった為、豊さん幸四郎さん共に子供の頃から可愛がっていたと言われているが
これもまたメイショウさんの人情である、当時オークスへのクラッシック登録が無かったにも関わらず幸四郎氏の「乗りたい」という気持ちに応え追加料金200万を払い出走を決める
周囲の関係のない人間は「幸四郎から変えた方がいい」と言う声が多かったそうだが、普段全く口を出さないメイショウさんはきっぱりと「幸四郎でいく」と言い放った
 そしてオークス当日 メイショウマンボ単勝オッズ28.5倍9番人気はラストの直線一気にゴール板を駆け抜け勝利を届けた
騎手武幸四郎の復活、そしてメイショウさんの所有する牝馬では初めてのG1制覇、ロマンである、むしろロマンの塊としか言いようが無い
 余談であり憶測でしかないがマンボの引退が長引いたのも血統による相手探しが難しかった等と言われているが、メイショウさんの性格から考えると幸四郎氏の残り少なくなっていた騎手人生のお手馬とさせていたい、そんな気持ちがあったのかなと思ってしまう

 このように落ち目になった騎手に手を差し伸べるエピソードとして、ディープインパクト引退後、成績不振が続いていた豊さんに次から次へと乗り馬を提供し続けた事もやはり有名だ
そして復活後の豊さんはあっさりとメイショウさんの馬から飛び立ってしまう
 このことは当時競馬ファンからは「メイショウさんに対する裏切り」などの声も出ていたが、子供の頃から可愛がりその騎手としての才能を埋もれさせまいとしたメイショウさんが、豊さんの復活を1番喜んだのではないかと思う
そしてまたいつか(仮にだが)豊さんがどんなに成績不振に陥ったとしても見捨てないのもメイショウさんなんだろうとも

 冒頭に書いたメイショウサムソンについてのエピソードも有名である
主戦は石橋守騎手(現在は調教師だが当時に合わせ石橋騎手としたい)
新馬戦から跨がりサムソンの能力が見出された後、お決まりのように外野から「騎手を変えた方がいい」と言われたそうだがメイショウさんは頑なに(騎手としては成績の振るわなかった)石橋騎手を乗らせ続けた(基本的に口出しをしないメイショウさんであるので石橋騎手起用については諸説有り調教師お任せだった可能性もあるが調査不足であるため間違っているかもしれない)
そんな流れの主戦石橋騎手のサムソンなのだが、2007年の凱旋門賞挑戦が決まった際には、普段全く指示をしないメイショウさんが敢えて騎手を石橋騎手から豊さんへと変えさせた
2人を呼んで「今回ばかりは私のわがままを聞いて欲しい」と石橋騎手に了解を求めたそうだ(wikipediaより引用)
アルアイン松山騎手が聞けば号泣しそうなエピソード
昨今のいとも簡単な乗り代わりの風潮の中で信じられないほどの筋を通す人情派メイショウさんである

 そんなメイショウさんとサムソンという馬の巡り会わせについて書きたい
成績は冒頭の通り偉大なるG1馬であるがメイショウさんの手に渡った時の購買価格は1千万にも満たない700万であったと言われる
 その破格にも関わらず激走した事実も驚きなのだが、私が強烈に「メイショウさんと巡り会うべきして巡り会った馬」そう思わずにはいられなかった事、それがサムソンの血統だ
オールドファンの多くが「メイショウ」とは「メイショウドトウ」を思い浮かべるであろうし、そのドトウと数々の名勝負を繰り広げた生涯のライバル
「テイエムオペラオー」
そのオペラオーの偉大なる父オペラハウス、サムソンの父もまたオペラハウスなのである
ライバル関係だった馬の血を引くサムソンが(言い方は悪く私も書きたくはないが)破格の値段でメイショウさんの元に来て、果ては凱旋門賞フランスまで連れて行ってくれる事に成る
これを競馬のロマンと呼ばずして何と例えればいいのか私は分からない

最後に、メイショウさんの印象に残った言葉を記し締めにしたい
「信頼できる調教師や生産者と思いが重なれば、どんな馬も強くなる可能性があるんです」松本好雄

おわり