23 誰にも話を聞いてもらえなくなる日まで
定年退職した教授が大学に現れた。最初は皆、わっと湧いて「先生、先生」と迎え入れるが、近況報告が終わると話すこともなくなってくる。皆それぞれの作業に戻っていき、教授が一人残る。
自分もいずれそうなるのだろう。
話をしても長すぎて誰も耳を傾けなくなるし、おかしな主張をしても腫れもの扱いで批判もされない。
今、卒論指導が詰まっている。学生がひっきりなしに研究室を訪れる。疲れる。でも、いずれは誰も来なくなる。
授業もそうだ。自分の話を聞きに教室に人が集まってくる。授業の準備は本当に大変だが、長々と好きなことを聞かせた挙句、金までもらえる。退職したら二度とないことだろう。
学生との飲み会も今は義務でしかないが、退職すれば行きたくても相手にされなくなる。まあ行きたくないが。
希有な仕事だ。今だけだ。よくも悪くも。
いつかは終わってくれるし、終わってしまうのだ。