古本屋の夢
カレー屋の椅子に向かい合ってによいしょと座ったら、友達が「あ」と言って私の頭に手を伸ばしてきた。髪に羽虫がついていたみたいだけど、友達はそれを取れなかった。それから注文して料理が来るまでの間に、どこかに飛んで行ったかと思っていたその羽虫がまた私の髪の毛から出てき(た、みたいで)、友達は今度はなかなか取ってくれようとせず、すごい、キラキラしてる、と声を弾ませていた。それで、スマホの内カメを使って自分の頭を見てみると、確かに羽がキラキラ白く反射している羽虫がいた。雫型の羽。たぶん羽蟻だな、と思ったら、羽蟻は私の髪の毛の中に潜り込んで、あ、キラキラしなくなっちゃった、と言った。友達が紙ナプキンでそっと掬いとってくれた、“乗り換え”と思った。じゃあ掬った羽蟻をどうしようか、ドアから逃がそうか、と迷っていると、ドアの反対側のキッチンから長身の店員がやってきて、いいですよ、みたいなことをぼやっと言って羽蟻の乗った紙ナプキンを、こんなこと慣れています、みたいなやり方で引き受けてくれた。ああ、ありがとうございます、と私たちは言ったが、その行方をまだ目でなんとなく追っていると、ドアの方へ近づきながら店員は紙ナプキンを丁寧に四つ折りにしてしまった。カレーは美味しかったけどナンが余ったので持って帰りたいので包んでください、と頼んだ。ルーはだめですか、と友達が訊くとうーん、みたいな感じでぼやっと首を振ったので友達はルーを全部食べることにした。
国立駅でグーグルマップで“古本”を検索したら一店舗だけ引っかかったので、約束までの時間も空いているし行ってみたものの、どんなに地図を見ても、位置はあっているはずなのに店の看板がない。何度も道を往復して、やはりその建物しかない。思い切ってそのデパートに入ってみると、昔ながらの小さな内廊下に色々とあるデパートで、婦人服屋や小さすぎる学習塾や謎のよくわからない扉なんかがあり、内廊下の向こう側へぐるっと回ると突然本棚が現れた。そしてその奥にこぢんまりとした古本屋があった。グーグルマップは正しかった。驚いたのは、その古本屋がとても品揃えがよく、私の欲しかった本や気になっている作家が概ね、挙げるところ揃っていた。しかも価格帯はかなり良心的で、ふつうの単行本なんかは三百円均一のようだった(さすがに良さそうなやつは良い値段がついているが)。私はさんざん迷ってからクレジオの小説2冊だけ買った。それから友達と駅で待ち合わせて、あまりにもすごいから二人でもう一度その古本屋に行った。今度も散々迷ってフィオナタンの図録とクラフトエヴィング商會の本を買った。ほかにも、買わなかったけど覗き見たすべての本は輝いていた。めちゃくちゃ状態のいいユングの『赤の書』や、知らない大江健三郎や、ありえんぐらい安い寺田寅彦随筆集も買いたかった。夢見てるみたいだった。夢だったかも。
次回予告,ひじを入れて写真を撮る方法を紹介。
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彼女(たち)について知っているニ、三の事柄