写真を撮りに、徳島へ。
梅雨の途中に、急に、清々しいほどの晴れ景色が訪れた。
私は徳島へ渡ることにした。
南海電車で一本。終点の和歌山港駅にやって来た。いつも大半の人間はひとつ前の和歌山市駅で降り、船旅客だけが、この駅へやってくる。
和歌山港から徳島への船旅。港を出ると、真っ白だった空は次第に青く澄み渡った。
乗船してすぐ、私はどうしようかと悩む。しばらくデッキで海を眺めるのか、じゅうたん席で、ひたすらのんびり揺れを楽しむのか。
徳島まではフェリーで2時間ほどだ。
しばらくすると淡路島らしき陸地が見えてくる。
このあたりで電波が届かなくなった。船内のフリーWiFiの接続がうまくいかず、ついに諦めて、ただぼうっと景色を楽しむとか、じゅうたん席で心地よい波の揺れを感じながら横になるなどして過ごすことにした。
徳島港に着いた。
家を出てから3時間が経ち、朝とは違ったとんでもなく暑い外気に襲われながら徳島駅行きのバスを待つことになった。
駅前の景色は、私の地元・兵庫県の神戸三宮にも劣らない賑やかさだなぁと感じた。三ノ宮駅前は現在工事中でさみしいから、むしろ現時点では徳島のほうが一見栄えて見えるかもしれない。
しかし、徳島のJRではICカードは使えない。しかも電車は走っていないし、もちろん自動改札もない。栄えている駅前の景色とは裏腹にローカルである。
時間もあるので、鳴門の方へ向かうことにした。しかしうずしおで有名な鳴門公園へ行くほどの時間はないため、駅前を散策することにするつもりであった。
しかし、この日の暑さは凄まじく、じっとしているなら未だしも、長い距離を、頻繁に立ち止まりながら、うろうろしつつ写真を撮るというような私の好きな散歩を行うことは、さすがに無理であった。
蒸し風呂みたいな駅ベンチで少し考え、一本後の列車で池谷という駅まで、来た道を戻ることにした。
古い私好みの車両がやってきた。見た目はもちろんだが、乗るにあたっては窓が開けられる点が良い。
池谷駅へ来た理由は、この駅自体が魅力的であり、また駅近くにレンコン畑が広がっているからである。
この駅は鳴門方面の線路と、徳島と高松とを結ぶ線路との分岐点だ。ふつうは駅を出てから線路が二手に分かれるが、ここは駅もろとも線路がハの字に分かれている。
また、跨線橋から駅舎のある方と反対側を見ると、レンコン畑の広がる一帯を見ることができる。
レンコン畑を見に行こう。蓮の花が咲いていることを期待している。
田んぼや畑より背が高くモサモサしていて、歩いていると包まれている感じがある
こちらがこの日の蓮の花である。
少し早かったようだ。
線路の両脇にレンコン畑があるので、少し列車も撮っていこう。
実は、徳島の古い列車を撮るというのもこの旅の目的の一つであった。
古い列車が好きなのである。
駅に戻って来た。もう日も暮れる時間である。一気に徳島へ戻ってもいいが、どうせなら別の場所でもう少し列車を撮ってみようか。
数駅隣の吉成駅で下車し、すぐ近くの田んぼへ向かった。
これから行く場所は、吉成ストレートなんて呼ばれて、鉄道ファンには有名な撮影地である。
青々とした田んぼに、ギラリと光る車体。よく撮れてとてもよかった。
すばらしい。
単線のローカル線の風景・駅で待ち合わせをする列車を撮影して、だんだん暗くなる車窓を見ながら、今日の徳島の宿へ向かった。
どうだろうか、この風貌。今日の宿は「旅館 はやし別館」である。
どうだろうか、このエレベータの操作ボタン。味がありすぎる。
今時珍しい女将さんによる部屋までの案内を受け、今日の寝床へたどり着いた。私が泊まりたかった旅館のイメージピッタリである。
カギにはオレンジ色のアクリルのでっかい棒がついているし、窓際の最高なスペースもある。大浴場もあるし、部屋にトイレもついている。汚いところもなく、ただ様々なところが古く懐かしい。これで一泊5000円である。
イメージ通りの最高な宿。女将さんの「古くてすみませんねぇ」という言葉には、なにを言うんですか、これがいいんです。という風に思うしかなかった。
宿について荷物を置いて、身軽になって街をめぐろう。この時間が大好きだ。
最高の夕焼けを見せてくれた。
徳島駅も位置する徳島市中心部は、川に囲まれた中州になっていて、「ひょうたん島」なんて呼ばれている。川を周遊する船なんかもあって、なかなか面白い地形だ。
この川の周りはきれいに整備されており、一日中のんびりしていたいような心地の良い場所になっていて、すてきだ。
空が濃い青色になったから、弁当を調達して、宿に戻ってだらだらすることにした。明日は鳴門公園に行ってみようか。
後編へ続く