Delico
撮りためた天気予報をみる。
雨雨雨雨雨雨雨。
この一週間、部屋の外から聞こえた音の正体。
この一週間、ずっとスイートサイドに行っていた。
仮死ドラッグを使用してイケる死後の世界
「スイートサイド」一錠につき、半日の小旅行。
昔はこんなもの必要じゃなかった。
デリコの話はわけがわからなかった。主語が無く、地の文と会話文が入り乱れていた。
理解しようとすれば頭が痛い。放棄すれば気持ちよくて仕方がない(しかし放棄しきってはいけない。異国のテレビに向き合う姿勢が丁度いい)。
小学生の頃、友人が転んで怪我したところに、同じクラスのデリコが通りかかった。
「大丈夫?」
「ああ、デリコか。うん、へーき」
「ふーん、あ、そんなことよりね…」
デリコは突然自分の話をはじめたらしく
途端、友人は怪我の痛みを感じなくなった、どころか心地よくなってしまった。
その噂は学校中に広がり、30分放課には、デリコの席に列ができていた。
中学生の頃だった。
「俺たちのデリコに対してのこのモヤモヤしてるもの、これって恋なんじゃないか?」
「そんなわけ」
「じゃあなんで女子の話聞くだけで、こんな幸せな気持ちになるんだ」
「それは」
「みんな自分の胸に手を当ててみろよ」
たしかにドキドキした。今思えば禁断症状だった。
高校生の頃だった。
俺はデリコと同じ学校でデリコはもてた。
みんなデリコに告白し、デリコは次々と彼氏ができた。デートは誰も、どこにも行こうとはせず、家でデリコの話を聞くだけだった。
俺もデリコと付き合ったことがある。しかし当時の記憶はほとんどない。ヘロヘロしていたからである。デリコには本当に申し訳ないと思う
ところで、
デリコとこの間久しぶりに会った。またある男に告白されたらしい。
「私の話が聞きたいだけなんでしょ」
「えっ」
「ごめん、なんでもない」
「じゃあ黙ってようか」
ふたりは1時間以上黙っていた。
「わかった、もう気持ちはわかったから!だから」「しー」
男はデリコの手を握り、
ふたりは結婚したらしい。
らしい。