管理職はいらなくなる?ティール組織の示す未来
今年一番の本、HUMANKINDを読んでいて衝撃を受けた一つが、スタッフに決断させるいわゆるティール組織(ビュートゾルフやFAVI)の紹介とその代表者の言葉。いずれも顧客満足度が高く、成長している組織だ。
1 ビュートゾルフ
オランダ発の在宅ケア組織。オランダでの年間最優秀企業に度々選ばれ、世界中にそのモデルが広がっている。
「チームは自分たちでスケジュールを組み、自分たちで仕事仲間を雇う。」「イントラネットサイトがあり、スタッフは知識と経験を共有できる。」「各グループには、困った時に頼れるコーチがいる。そして、経済的側面を統括するメインオフィスがある。」
ビュートゾルフのヨス・デ・ブローグは、マネージャーに対して辛辣な意見をもっている。
「現場の人たちはアイデアに溢れている」「マネージャーはほとんどアイディアを持っていない。」「彼らは『パフォーマンスの高いリーダーシップ』講座のようなものを受講して、自分たちは形勢を一変させるゲームチェンジャーで革新者だと思い込んでいる」
「どのようにして従業員のモチベーションを上げるのですか。」「何もしない。そんなことをしたら偉そうに見えるだろう。」
そうか、マネージャーはいらないか。先日読んだブル̪シットジョブでも、中間管理職は他人に仕事を割り当てるためだけに存在している職種であった。ちなみにHUMANKINDの著者は、金銭はモチベーションを下げる、人間のモチベーションの源泉は別にあると主張する。
確かに、上司が部下の仕事を評価して給与に反映させるシステムの限界として、昇給されなかったメンバーは、頑張ったのに仕事が評価されなかったとモチベーションを下げるだろう(本来は仕事は金銭だけで評価されるものではないのだが、システム上そのように受け止めがちだ)。
2 FAVI
フランスの自動車部品メーカー。1983年にCEOに任命されたゾブリストはスタッフが決断する組織に切り替える。
「各チームに、賃金から労働時間、誰を雇うかまで、あらゆることを決める権限を与えると共に、各チームが顧客に対して直接、責任を負うようにした。」「定年を迎えたマネージャーの再雇用をやめ、人事部、企画マーケティング部門を削減した。また、「逆権限委譲」方式を採用し、チームはすべての仕事を自分たちで行い、必要な時だけマネージャーを呼ぶようにした。」
3 ここからイメージする将来の組織像
上の二つの事例を読んで勝手にイメージがわいた。
・社員は全員プレーヤー
・リーダーもメンバーと同じ立場で現場発のアイデアの実現や改善を促していく
・経費を含めた情報はオープンに共有され、自分達で目標を決め、目標を評価する
・現場に適した人材をチームで採用(人事部はあくまでサポート)
・採用したメンバーは現場で育てる(研修動画やイントラ上で共有されたノウハウがこれを助ける)
・自己管理する勤務データと相互評価で各人の成長とスキルを可視化する
・顧客とのトラブルも現場で解決(結果トラブルを避ける行動に。総務や法務部門はあくまでサポート)
・経理機能はネットサービスを利用(経理部門はあくまでサポート)
4 ここから気になるティール組織の将来像
ティール組織が勝手なイメージのとおりだとすると、会社という組織の中に多数の中小ベンチャー企業が集まっているようなものだ。ベンチャー企業の起業者を思い浮かべてみると、仕事をアサインだけして現場感覚をもたないマネージャーは不要という考え方が出てくることは容易に想像できる。
マネージャーより現場を重視する考え方は、今後少子化の中で企業側の思惑とも一致してくるかもしれない。そうなれば、マネジメントよりも、現場でリーダーシップを発揮するプレーヤー型リーダーか、チームの外側からメンバーの決定をサポートし相談に乗るコーチまたはアドバイザー的なスキルが重視されていくことになるだろう。
一方で運営について気になることもある。
・チームメンバーの給与はどのように決めるのか。もし各人の経歴や市場評価を基準にする場合、現場でほぼ同じ仕事をしながら給与が違っても気持ちよく働けるのか(ついつい比べてしまわないか)
・一般企業で部門として見える化されている業務(採用・教育・総務・法務)を現場で行う結果、リーダーの過負担にならないか。負担にならないだけの十分なシステムや外注リソースをスタート時に準備できるか
・イントラネットやシステムでカバーできない、全社共通で業務を遂行したが効率がよい業務がないか。
・チームの利益が個人の利益となる仕組み
など、気になる点は多いものの、HUMANKINDの本を読んでいてティール組織に出会うとは思わなかった。この本は本当に奥が深い。遅ればせながらティール組織の本も読んでみたい。