朝、シカ撃って、夜、大阪へ
午前中、365日、毎日のルーティン、罠の見回り。
今日は一頭の雄鹿がくくり罠にかかっていた。若いとは言え、角は30センチはある。先日も鹿に胸を刺されて農家の男性が一人亡くなったニュースが流れたばかりだ。こういうときは近づくと危険。足首にかかったワイヤーを足首ごとちぎって逃げる鹿は多い。距離約30m、20番スラグで頭に一発。
射撃は得意なんだが、どう頑張ってみても、女は男より力が弱い。
山の斜面に横たわった鹿の耳下にナイフを刺す。切断された頸動脈から血がどくどくと流れる。
さて、この鹿をこれから軽トラに乗せてジビエ解体場まで運ばなくては。
いろんな道具を軽トラに積んでいる。
道具で私の力を「男の力」と同等にし、これから巨大な重りと化した鹿を動かす。
山の中で女一人で鹿を撃ったあと、男に電話して運ぶのを手伝ってもらうなんて、まっぴらごめんだ。
見たところ、この雄鹿、40kgくらいか。
山の斜面を引きずって軽トラのある下道まで下りる。ここまでを想定して罠をかける。
さて、ここからが道具の出番。
工事現場で使う足場板2mを2枚、軽トラの後部から地面に渡す。
二輪車に鹿を乗せるにはちょっとコツがいるが、慣れればOK、力の抜けた鹿を乗せた二輪車を押して、緩い傾斜の足場板の坂道を登って荷台へ上る。二輪車の持ち手を前に押し出せば、荷台のトロ箱に鹿がどさっと音をたててぴたりと落ちる。
あとは、道具を積みなおして、軽トラを走らせるだけだ。
ジビエ解体場で軽い雑談を交わしながら、血の付いたナイフやトロ箱を洗う。職員の慣れたナイフさばきで腹を割かれた鹿の内臓が、どどどっと躍り出る。
じゃ、帰るわ、よろしくお願いします。
今日は午後から仕事で大阪だ。
車で約4時間、休憩を挟めば4時間半でホテルに着くはず。
二泊三日。久々の都会。
猫をペットホテルに預け、インターをくぐった。
山の中の高速道路がいつしかマリオカートみたいな大阪の環状線を走る頃には、いよいよ頭の切り替えが必須の作業となる。
高層ビル群、空中を飛ぶ着陸態勢の飛行機たち。
大企業の名前の入った建物と光、光、光。
私、今朝、山で鹿獲ったんだよな・・・
間違いない。あの鹿はあの山で生きていた。私が銃で撃ったんだ。
秋になり、鹿の遠音が響く暗闇の中、毎晩オリオン座を眺め、天の川を時折通過する流れ星に将来の願い事をしている田舎女には眩しすぎる明かりだ。
明るすぎる道路を駆け抜け、狂いそうになりながらやっとの思いでホテルの駐車場にイン。
鹿の目みたいなまなざしのフロントの女性と会話をし、館内の説明を受け、当てがわれた小さな部屋に入った。
朝と夜、今日、私が過ごした時間は、本当に同じ日本の出来事なんだろうか。
格差なのか、違いなのか、夢なのか。
私は猟師。
五年前に都会から田舎に移住し、昨年の夏、国家公務員として長年勤務した挙句に早期退職し、現在に至る。