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刑務所と、拘置所と、留置場①
ここまで、刑務所の生活をメインに書いてきた。
今日は少し趣を変えてみたいと思う。
刑務所と、拘置所と、留置場の違い
警察に詳しい方や、よく刑事ドラマを観る方ならご存じかもしれない。
ただ、圧倒的に知らない人の方が多いと思う。
その違いを、私が経験した生活の面でご説明していきたい。
本日は留置場編としてお送りする。
留置場は警察の施設
留置場は、基本的には警察署の中にある。
逮捕されて、即日釈放などされない限り、ここで生活することになる。
建物が古い警察署だと男性しか留め置けれない施設もある。
その場合、女性は別の施設に移送される。
逮捕されたからと言って、24時間取り調べを行うことは出来ない。
食事や睡眠、運動など、ルールが存在する。
【刑事収容施設法】と呼ばれる法律だ。
詳細は、法務省のホームページなどをご参照いただきたい。
感情が安定しない場所
留置場は、とても嫌な場所だ。
なんせ、「逮捕」という衝撃的な出来事が起こったあと、
ここで当分生活しろと言われ、身包み剝がされて生活するのだから。
その点、刑務所まで行くと感情は割り切れていた。
家族と会うのも、弁護士と会うのも、すべてアクリル板越し。
アクリル板には実際に穴が開いており、話し声が聞きやすくなっている。
アクリル板1枚なのだが、さっきまで触れ合っていた家族が、
この1枚の存在で、一気に手の届かない存在に変わってしまった。
数年前に、アクリル板を蹴り破って逃走した容疑者がいたが、
正直そんな元気がどこから湧いてくるのか分からない。
それくらい、初めての人は心も体も衰弱する。
警察官が常駐して面倒をみてくれる
留置場には、専任の警察官が交代制で常駐している。
私がいたところは、3交代制で24時間勤務だった。
ベテランと若手の2人ペアになっていて、平日は責任者がいた。
留置場の警察官は、お礼参りの対象になるようで、
苗字が伏せられていた。番号や仮称で呼ばれていた。
この方々が生活の世話をしてくれるのだ。
事件のことをある程度把握しているので、相談にも乗ってくれる。
所詮警察官なので、身内のネガティブな話はしないが、
結構踏み込んだ意見を持っている方もいた。
苗字がなくなり、番号で呼ばれる
ここでの生活も、称呼番号で呼ばれる。ほぼ苗字は呼ばれない。
私が収容されていたころは呼び捨てだった。
運動の時間に、他の収容者と顔を合わせることがあるのだが、
基本的に番号で呼ぶように促されていた。
ただ、どうしても苗字が露呈するタイミングが出てきてしまう。
その瞬間は、なぜか知られてはいけない秘密がバレたようで、
とても落ち着かなくなった記憶がある。
まあ、所詮容疑者や被告人の集まりなので、
そんな気にしなくてもいいのだが、ソワソワしたものだ。
居室の生活
生活の場は、基本的に独居(単独室)での収容となる。
ただ、大都市の留置場だと、複数人で収容されるケースも多いようだ。
単独室の広さは3畳ほど。
ここにトイレのみ設置されていた。
洗面台や鏡は設置されていない。
トイレのあとの手洗いは、トイレ内の壁に設置された、
ボタン式の水栓のみ。もちろん飲料用ではない。
手洗いや洗顔、歯磨きなどは部屋の外で行う。
当たり前だが、部屋には鍵が外から掛かっている。
起床後すぐと、夕食後の2回のみ洗面等が認められている。
あと、取調べや実況見分で外出した際は使用が認められていた。
生活の時間はすべて決められており、既に自由はない。
さらに、いつ取調べに呼ばれるかわからない。
そもそも、警察官が好きなタイミングで取調べが出来るように、
容疑者として留め置かれるのだから仕方がない。
これが辛い。常時拘束されている感覚が、心を蝕んでいく。
お菓子・弁当の摂取が可能
希望すれば毎日嗜好品を頼めたし、毎日食べることが許されていた。
食事は3食無償提供されるのだが、自分で弁当を購入することもできる。
私がいた施設は、大変美味しくない仕出し弁当だった。
しかも、何度かご飯から異臭がしたこともあった。
ただ、この留置場ではあるあるのようで、
「ごめんごめん、おにぎり買ってくるから待ってて」
などと、警察官の対応が慣れすぎていて驚いた記憶がある。
なら、弁当頼めばいいのでは?と、思われたかもしれない。
残念なことに、仕出し弁当を調理する店が弁当も調理するため、
正直どっちもどっちだった。
あとから聞いた話によると、何人もこのご飯でお腹を壊しているそうだ。
警察署で食あたり、でも外部には公表されない。日本の闇を見た。
24時間、弁護士が来てくれる
ここにいる人たちは、自分がどうなるのか心配な人ばかりだ。
初犯・再犯関わらず、やはりお先真っ暗だと心配になる。
そんな悩みや心配を相談する相手が弁護士だ。
こちらから警察官に頼んで呼んでもらうこともできる。
逮捕が夜間や休日であっても、不利益にならない様に整っている。
『弁護士が来るまで黙秘します』
的なやつは、実際に存在するのである。
また、知り合いの弁護士がいなくても、国が弁護士を用意してくれる
【国選弁護士】と呼ばれる制度もある。
この弁護士は【無料】である。経済的に余裕がなくても問題ないのだ。
これは法律に基づいた権利とされている。
ちなみに、自分でお金を払うタイプの弁護士は【私選】と呼ばれる。
どちらにせよ、弁護士と話すと何故かホッとしたものだ。
手に入る情報は、新聞とラジオのみ
留置場にテレビはない。そのため、新聞とラジオが情報源となる。
新聞は全員に回覧されていたし、ラジオは夕方放送されていた。
しかし、警察署にいるということは、自分が逮捕された記事や
音声が流れる恐れがある。
その為、新聞は事前に検閲され、収容者が載っている記事や、
共犯の名前が載っている箇所等は切り抜かれていた。
私がいた頃に大きな事件があり、1面のうち半分以上が切り抜かれた、
「これなら全部切った方がいいのでは?」ぐらいな時もあった。
ただ、時間が経つにつれて警察官も古い事件は頭から抜けるようで、
何件か、この署の事件なのに切り取られていなかったこともあった。
面会や差し入れがあると、心が安らぐ
1日あたりの面会回数は、決められていたと思う。
1回あたり3人まで面会出来たような気がする。
結構前の事なので、違っていたら申し訳ない。
面会時間は15分くらいだった気がする。
一方、弁護士に回数や時間の上限はない。
差し入れは随時受け付けていた。
手紙や写真、現金やお菓子、それから服や日用品など。
ネクタイやベルトは自傷行為の恐れがある為受け付けていない。
また、スウェットなどズボンの紐やゴムは、同じく自傷行為の
恐れがあるため、除去されて渡された。
1番嬉しかったのは【書籍】だ。
備え付けられた本もあるのだが、やはり古い。そして小説が多い。
外部から差し入れてもらえる、色々な本はとても嬉しかった。
宿直の警察官は暇
書籍やお菓子、日用品など、常に身の回りにあれば便利なのだが、
留置場では自傷行為のリスクを考慮して、
一切の自己保管が認められていない。
その為、書籍やお菓子などは、時間になると回収される。
そんなある日、巷で話題の新刊本を手に入れた。
部屋から回収される際に、宿直の警察官が、
『この本、今夜読まさせてくれない?』と、
お願いされたことがあった。思わず、
「暇ですもんね」と、言ってしまった。
『そう、暇なのよ』と、返ってきたのが面白かった。
翌朝、満面の笑みでお礼を言われたのが印象深い。
ここから出られるタイミングは?
留置場は、警察官が取調べを円滑にするために被疑者を勾留する施設だ。
つまり、捜査がひと段落したり、一向に捜査が進まないと勾留する
必要性が低くなる。
そうすると、晴れてここから出ることが出来る。
しかし、その運命は2パターンだ。
1,保釈や釈放されるパターン
これが最高のパターンだ。
ただ、保釈と釈放は似て非なるものだ。
とりあえず、自由の身になれることが嬉しいのだ。
保釈:これは「起訴」された状態で身柄を拘束されなくなる
ことを表する。つまり、被告人の状態である。
裁判所が身柄の拘束を解くことを認めるとこのようになる。
事件の捜査がほぼ終わり、逃走する恐れがないとか、証拠隠滅
する可能性がないなど、条件は色々とある。
一般的に「保釈保証金」という、お金を払って保釈される。
交通事故の場合は、起訴と同時に保釈されるケースが多い。
釈放:これは、逮捕されたが起訴されていない状態で身柄が解放
されることをいう。つまり「起訴されていない」状態だ。
嫌疑不十分だったり、略式起訴(罰金刑のみ)などがある。
ただ、起訴猶予もあるので、一概に喜ぶことはできない。
2,拘置所へ移送されるパターン
これは絶望するパターンだ。
「引き続き身柄は拘束するが、それほど取調べもない」
「もう取調べをする必要がないが、外に出すわけにはいかない」
このような考え方だ。
ただ、拘置所へ移送されるタイミングで保釈が通るケースが案外多い。
勿論、殺人や性犯罪など罪状によっては一切外へ出られないものもある。
拘置所からは法務省管轄となる
これが大きなポイントだ。ルールがガラッと変わる。
嗜好品の摂取や、日用品の管理、入浴や運動など、
全てが変わってくる。
どちらが良いのか?と聞かれると・・・私は留置所の方が良かった。
拘置所は、人は良かったがルールが厳格だった。
ちなみに、留置所と拘置所の弁当は同じ仕出し屋が調理していた。
留置所の生活から、すべてが記録されている
最後に、万が一の為にアドバイスをしておこう。
これから逮捕・起訴・実刑→刑務所へ行きかねない人向けだ。
留置場の生活態度からずっと記録が残されている。
その為、警察官とやりあったとか、常に反抗していたとか、
自分に不利になるような内容も含め、すべて記録が残る。
この記録を基に、刑務所で行う刑務の内容が判断される。
わざわざ反抗的な受刑者が、職員に近い役割を与えられるわけがない。
どのように振舞うか、もちろんあなた次第だ。
わざわざ国家権力に尻尾を振りなさい、というつもりは毛頭ない。
ただ、事実として記録は残る。
それだけ覚えていてほしい。