2章【ジョブズの功績】スティーブ・ジョブズの人物評
2-1: アーティストとエンジニアの交差点
スティーブ・ジョブズの最大の功績は何だったのか。本質的に見れば、それは個人の可能性を飛躍させたということ。もっと言えばディジタル環境の中で個人が王国を造れるようになったことと言えるだろう。
ジョブズは禅マインドと共に交差点に立ち、多くをつなぐ人生を送った。中でも最大級のクロスオーバーは、日常生活とグローバル・ネットワークを交わらせたことにあるだろう。
今、多くの人がスマホ1つで世界中の情報にアクセスすることが可能になり、一方で自らを何らかの形で発信もできるようになった。
この驚くべき個の飛躍は、理系と文系の交差から始まる。
ジョブズは若いときからこの両方の知性の交わりが新たなブレークスルーになると信じていた。
2020年の現代では当たり前のようにミュージシャンや漫画家やデザイナーの多くがマックブックを使う。だがジョブズの青春時代・1970年代では全くありえないことだった。
コンピューターとは基本、国家権力の最大のツールであり、理系脳に優れた者たちがそれを駆使して軍事・経済・統制などの面で国家に貢献していた。そのため70年代のヒッピーたちはコンピューターを敵視していた。
だがアメリカ西海岸のシリコンバレーには風変わりなヒッピーもいた。テクノロジーの進歩が個人の可能性を拡張し、これまでにない新たな文化を生むと考える者たちもいて、ジョブズもそんな1人だった。
彼はヒッピー時代から生涯ずっとアーティストとエンジニアが交わる交差点に立っていたといえる。Appleという社名もこの精神を表している。
ちなみにその由来は、社名を登録する際、リンゴ農園でのバイトから帰ってきたジョブズが即興的にそうつけたというものだ。
それでもどちらかと言えば、ジョブズのベースはアート・人文科学にあったといえる。だからこそAppleプロダクトは何よりも美しいデザインで世界中の人を魅了したのだ。
2-2: 1984・個人の解放か国家権力の膨張か、未来の命運を決める戦い
Apple初の革命はやはり1984年発売のマッキントッシュになる。ここからコンピューターと個人の日常生活のクロスオーバーが加速し、ウィンドウズ革命によってピリオドが打たれることとなる。
マックの発売時、ジョブズはコンピュータ会社最大手IBMを敵に回す。そしてこの戦いについて、作家ジョージ・オーウェルの名著『1984』に引っかけてコンピューターを巡る個人と国家の覇権争いだと位置づけた。
だが、それは基本、マーケティング戦略であり、後述もするジョブズ特有の現実歪曲フィールドによる被害妄想だったとも言える。
70年代後半、すでにAppleⅡがパソコン市場を開発し、IBMなどの大手も追随していた。たとえAppleⅡやマックが出ていなくても、コンピューターが国家権力とタッグを組む悪夢の未来は避けられたのではないだろうか。
その後、マックは値段の高さから売れず、その失敗がジョブズのApple社からの追放につながった。 だがそれでも、1984年のマック革命は象徴的な効果を放った。
それによってスパコンよりも
パソコンこそが
人の幸福や文明の進歩につながるという
人類共通のマインドが
造り出されたといえる。
もちろんマック登場には実質的な価値もあった。ジョブズがこの革命の先頭に立ったことで何よりもデザインが洗練され、パソコンがより人を魅了するものになった。さらにジョブズが指摘するよう、Appleはパソコンばかりか1991年に最初のノートブックの原型をも生み出している。2つのひな形を造ったその功績は極めて大きい。
その後、ビル・ゲイツ率いるマイクロソフトが台頭する。
彼らは長年に渡り恐るべき忍耐力でマックの技術やアイデアを盗み、そして恐るべきビジネス交渉力で激怒するジョブズを黙らせることができた。
マック発売から11年を経た1995年、最強OSウィンドウズが出ることで、コンピューターの覇権争いの勝者は個人・パソコンとなった。
ゲイツの強みはオープンマインドにある。彼はエリート主義のジョブズとは違い、お金さえ払えばどんな会社にもOSを与えた。それによって初めてPCが庶民の隅々にまで行き渡ることになる。
僕も今こうしてiPodを聴きながらWindows10搭載のHPパソコンでキーを打てているのは、ジョブズとゲイツ、この2人の会社がみごとにクロスオーバーしてくれたからである。
2-3: ジョブズとゲイツは秘密の婚姻関係にあった⁉
ジョブズの具体的な功績は、主にPCをハブとして多様なディジタル・ネットワークを日常生活の基盤に組み込んだことになるだろう。
すべては2001年発売のiPodから始まる。「1000曲の音楽ライブラリーをあなたのポケット」にというキャッチコピーのこの携帯音楽プレイヤー自体ももちろんすごい。
しかし真にすごいのは、iPodの大盛況を軸にして、ジョブズが、それにマックブックとiTunesを加え、三位一体として1つに統合したことにある。
それがパソコンをハブとした豊かなディジタル・ネットワーク時代の基礎となった。音楽・ブラウジング・写真・ヴィデオ・書籍・アプリ、ジョブズ亡き後にはテレビやエアコンなどの家電製品まで1つに繋がるようになった。ハブの方も、今やPCからスマホ、そしてクラウドにまで広がっている。
どこまでも個性的なジョブズは、自身が生み出した製品と技術を自分の哲学が浸透したApple社にしか与えようとしなかった。一方でゲイツはオープンな分散型モデルを押し進めた。
だが、伝記の著者・アイザックソンが指摘するよう、この戦いは最終的に引き分け、どちらも正しかったことが証明された。
21世紀に入り、ジョブズもゲイツも互いの領域に踏み込み始めた。ジョブズはiTunesソフトをウィンドウズPCに提供し、ゲイツは自社制作のPCやゲーム機を売り出すようになった。
一社によってクローズドな統合世界を築きながらもオープンにその恵みを分け与えようとする。
ジョブズとゲイツが交差することで、この民主的なエリート主義ともいえる新たなディジタル時代が始まったと言える。その後、GoogleやAmazonもこの路線を歩み、新たな支配のルールとなった。
これは政治の流れにも重なる。20世紀、民主主義と社会主義は冷戦を展開したが、今やそれらは融合しようとしている。
コロナ禍の今、世界中でベーシックインカムの導入が議論されている。この最も社会主義的な政策が、民主主義が浸透した欧米諸国にも受け入れられようとしているのだ。ここにもまた歴史上の大きな交差がある。
https://note.com/20umaken20/n/na7be46472449
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