【マンガ感想】キラキラしても、しなくても / 小池定路
キラキラしたものとはなんだろう。夜空の星だろうか。過ぎ去った日の思い出だろうか。
辞書を引いたらこんな解説が出てきた。
今回は小池定路先生の最新作「キラキラしても、しなくても」について書きたい。
概要
2022年5月~2024年5月、webアクションにて連載。
公式ハッシュタグは#キラして。
9月いっぱいはコミックシーモアにて分冊版1話~6話を無料配信中。非会員でも読める。
迷い悩む少年達
本作は二つの高校を舞台にしたオムニバス作品だ。登場するキャラクターは
親友への恋心と友情の間で揺れている子、
双子の兄へコンプレックスを抱いている子、
妹へ秘密にしていることがある子、
亡くなった大切な人のことが忘れられない子、
幼なじみへ抱く感情の変化に戸惑う子――。
と、悩みや心の傷を抱えた子ばかり。どの子も等身大で、ごく普通の男の子だ。
すべてを包むようなあたたかさ
本作の中心は恋の話。男性同士の恋愛を主題としたBL漫画だがヒューマンドラマとしても読める。
親友へ思いを寄せる小峰慶太。その親友が好きな女の子へ告白しに行くのを見送った彼は、気持ちを胸にしまい込み応援のメッセージを送る。
星野周が幼なじみである小鷹周への感情を自覚したのは、しゅうの身体的な変化を意識した時だった。
人間の感情は、決してきれいなものばかりではない。嫉妬、不安、諦観、怒り……。この作品はそういった感情を描きつつも全体的な雰囲気はあたたかく優しい。空気感のよさは小池先生が創る作品の大きな特徴だが、今作は包み込むものがさらに広がった印象を受けた。
相手を思いやる気持ち
自販機の下に十円落として困っていた後輩にお金を貸す――これが小峰慶太と羽村悠貴の出会いだった。悠貴はこう振り返っている。
慶太にとっては十円貸しただけでも、悠貴にはとても印象的な出来事だったのだ。
キラしての登場人物達は、ほぼ全員が誠実で真摯。相手を尊重し、彼らなりに向き合おうとしている。そばにいて話を聴いたり、いつもと違うことをやってみたり……。たとえ相手の想いに応えられなくても、決してぞんざいな扱いはしない。その姿勢に心が洗われる。
収録順の変化
本作のコミックス版は連載当時と話の順番が変わっている。コミックス版は連載当時の5話が最初のエピソードで、その後1話→1.5話→2話と進む。
分冊版は連載時準拠、pixivコミック版はおそらくコミックス準拠と、メディアによって収録順も違う。
そのため、同じ作品の同じ話数の話題のはずなのになんだか噛み合わない……という事態が起きかねない。
だが、それぞれの順番にいいところがある。私が考える長所はこんな感じ。
コミックス版準拠の長所
あまねとしゅう編で始まりあまねとしゅう編で終わるコミックス版は、作中の時間経過がよりわかりやすくなっている。物語としてまとまりがいい。
連載版準拠の長所
連載版の長所は画のまとまりのよさ。ラストシーンのエモさは、けいたとゆうき編から始まる連載版だとより強く感じられると思う。
細部に宿るこだわり
小池先生のこだわりを感じた点が他にもある。作中に出てくる花の花言葉やトランプの意味が、登場人物の心情や台詞、展開にぴったり合っているのだ。気になった方は調べてほしい。
……とはいえ私は植物知識がなく、花に隠された意味はほとんど理解できていないと思う。くやしい。
さいごに
本作はコミックス裏表紙のキャッチコピー「大人になる前の柔くてほろ苦い青春オムニバスストーリー」がまさにぴったりな作品だ。
触れたら壊れてしまいそうな不安定さに、気持ちが痛いほど伝わってくるモノローグ。華やかな学生生活でなくても、自分からは見えなくても、確かな煌めきがそこにはある。
作者のブログには各話の裏話やコネタが掲載されている。先述した収録順の事情から、コミックス/pixivコミック派の方は5話の記事を先に読んだあと1話、2話……と読み進めていくと違和感なく読めるはず。私は7.5話(あおとあけお番外編)の記事で泣きそうになった。
また、電子限定の番外編もある。
手のひらに掬いきれなかった星を拾うような、あたたかい物語だ。本編を読み終わったらこちらも是非。