音のない世界(超短編)

目が覚めたとき、僕は確かなある違和感を感じた。
しかし、それが何なのか、はっきりとは分からない。
引っ越しの際に寂しくないようにと友人にもらったステレオや8インチのテレビ、自分の体にはいささか大きすぎるベッド、そして机や棚。全てがいつものようにいつもの場所に置かれていた。
時計の秒針が規則的な運動を静的に行っていた。
……静的に?
おかしい。いつもならコチ……コチ……というリズム音が聞こえるはずだった。
しかし、時計の側に耳をあててもその音は聞こえなかった。まるで音だけが抜き取られたかのようだった。
試しにテレビの電源を入れてみた。しかし写しだされたのは音を欠いたワイドショー番組だった。なにやら原発問題について熱く議論しているらしいがその内容が僕に届くことはない。
そこでようやく僕は違和感の正体を悟った。
どうやらこの部屋からは音が完全に失われているらしい。文字通りただの一つも。

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