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あれから

(令和2年  11月  推敲しました。)



もうすぐ 三月。  弥生の月がくる。

    桜花爛漫の春。

私は昨年、元夫のDV、モラハラに耐え兼ねて 「家出」 いわゆる「昼逃げ」をして離婚をしたのだけれど。 暑い真夏は苦しくて。 だけど新しい生活が始まった。

あれから半年以上たつ。

令和2年。11月。もう一年以上、一年と3ヶ月が過ぎた。


少し前に、意外な人から意外なメッセージが私に届いて少し驚いた。そして神様に感謝した。   短いメッセージは「かつての夫 あの人」からだった。   半年間、そんなことを彼が言ってくる、そして彼もまた苦しんでいるなんて夢にも思ってはいなかった。 私が苦しんでいるだけだと勝手に思い、 苦悩と葛藤は日々、私を苛み、つらいと悩む私の思い込みは私を苦しめ、 それは大好きなR氏にも伝わり、そしてR氏を困らせた。過去には触れたくはないが、ありのままを書く。

長い同棲生活。入籍。二度目の離婚。

・・・。  互いを忘れられたらどんなにか楽だろうか? 同じようにお互い私たち元夫婦は思っていたのだ。

 

それは真夜中にきたメールだった。
私に新しい人生と恋が始まっているのを知っているのか、それとも・・・。

私はわかっていた。あの人が実はずっと私が帰って来るものだと考えて、そう思っていて。 私が飛び出したあのマンションに何ヵ月もひとりきりで黙って私を待っていたことを。私たちは愛しあっていたからこそ籍をいれたのだって。確かに私は彼に愛してもらったんだって。頑固な可愛げのない私と不器用な元夫はわかりあえなかった。だけど、あの人は毎年、私が藤の花が好きだって理由でわざわざ大きな藤の木を御神木にしている神社に私を連れて行き、大きな長いきれいな藤の花を見に連れていってくれた。
  ・・・藤の花を見に行くか?イチゴのかき氷いらんか?・・。  照れくさそうに毎年言ってくれていた。昨年もそう言ってくれたのに私は首を横にふって断った。いきたくない、行かないって。あまのじゃくな私がいた。
今思うと悪かったと謝りたい。
誰よりもさみしかったのは間違いなく元夫なのだ。

この海の続く波の果てにあの人はいる。一人残されて同じようにさみしかったのだと今、ようやく彼から受けた暴力も暴言も許したいと思える。


あの人も不器用過ぎて、私をどう扱えばよいのか迷っていたのだ。口下手だから、強がりだからやからをかますようなことが若い頃元夫はたくさんあったようだ。

私の夢をあの人は知っていた。書きたい、何かいろいろ書いてばかりいたって彼は知っていたはずなのだ。

そして、もしかしたら私の書いているnoteの記事もあの人は読んでいるのかもしれない。ならば私に新しい生活と愛があることを知っていることになる。

以下の文章は元夫からのメッセージを編
集して記したものだ。

「野良を拾ってくれた13年あまり。後悔も多いがしあわせをもらった。 忘れてしまえたら。 どんなにか楽だろうか。 貴女が生きている。 それで自分は十分なのだ」 

それは彼なりの不器用な優しさだったのだ。

・・・・・。

野良。   あの人が自分自身を
揶揄した表現。長く一緒にいたからあの人のこともわかる。結構、本は読む人だった。私が家出をしてから「 豆腐な気持ちだ 」って、崩れそうな気持ちをメールに書いて寄越した。 豆腐。 崩れてしまいそうだって言いたかったはずだ。戦国の時代の日本史が大好きで、戦国武将に憧れていた古風な不器用な人だった。 それから、私はあの人をしあわせにはしてあげられなかった罪に苛まれて昨年夏からこの春までの半年を過ごしてきた事実がある。

マンションにおいてきた彼のパソコンの中には私がまだいるはずだ。二人で使っていたから。あれを強制初期化していなければ彼は私のこと、私のパソコンの履歴、好きだった音楽、大好きなCDのアルバムジャケットなどがつまっているはずだから。 嫌でも私のことを見てしまわざるを得ないだろう。あのパソコンの中には私が残っている。 愛し合っていたからこそ私たちは「入籍」したのだから。 だけど。 暴力からの家庭内別居。それからすれ違いの毎日。二人の実子みたいだった飼い猫の死。交わるのは、雪融けはもうできない。 私たちは一緒にいてはいけない、と私は思った。 このまま暮らせばいつか私が刑事事件を起こしてしまうかもしれない、いっそ彼を殺して私も死のうとまで思い詰めたりした。できれば離婚は避けたかった。    深刻だった。 私は追い詰められていた。

私がマンションを飛び出すまで会話らしい会話はなかった。

R氏と知り合い、素敵な優しさに惹かれながらも自分はまだ離婚もできていないし、R氏にも他に奥様か彼女がいるだろうとも思っていた。
私の心の数だけ体が欲しいと泣いたりもしていたし、お互いをよく知らなかったし、恋なんかしたらそれこそ不倫だって切ない心は殺した。だけどまたいつか会えたら、とも願ってもいた。

うちを出てく。猫を抱えて。耐えられなかった。箱に詰めた荷物は少しずつ整理しながら元夫に気取られないようにマンションから運び出したつもりだった。

一番重たい最後の荷物は「本」。ずいぶん処分はしたが。私がもうひとつの愛の始まりに悩んで。R氏のことだ。そしてそれさえも捨てる気持ちでいた。忘れよう、九州から出たらもう二度と会えないだろうからと思っていたR氏につい「どうしよう、台風で荷物の集荷できないって言われた・・飛行機、明日・・・・」
電話で涙声で話してしまった。 あちこち運べそうな業者、私をよく知る友人や先輩方にもお願いもしたが、個人の複雑な事情で仕事を休んでくれなんて無理も言えない。
電話して、タクシー会社にも頼んだが車が足らないから無理だと断られた。運転免許はあるのに車を持っていない。周りには事情を話せない。取り乱して不覚にも私はR氏に泣いて電話で相談してしまった。

「俺がいこうか?荷物出そうか?待ってて、マンションにひとりなのか?」と。

彼はきてくれた。 嵐の中を危険をおかして。1人で信じられないほど重たい荷物を素手で抱えて運び出してくれたのだ。 もしかしたら私のかつての夫から見つかり大変な目に遇わされたかもしれなかったのに。  R氏は、猫ちゃん? 猫ちゃん? 大丈夫?   ・・ そう言いながら重たい画集や写真集などぎっしり詰まった箱をマンションから1人で抱えだして車に詰めて宅急便の営業所に運んでくれたのだ。 もしも、 あのとき台風がきていなければ、あのとき無事に自宅マンションに業者が集荷に来ていたら、R氏とは暮らしていないだろうし、私は生きてすらいないのかもしれないのだ。

元夫は朝早くに仕事に出かけ、夜に帰宅の予定だったし、自宅マンションのリビングには私の痕跡すらほとんどなくなっていたわけだから私が近々出ていくことは薄々気づいていたのだろう。
翌朝、室内に最後の洗濯ものを干し、私は出ていった。愛猫ちゃーちゃんを抱えて連れて。猫を抱えて私は街を出た。

私はあの人、かつての夫にもR氏にも悪いことをした。・・・自分は全く悪くないなんて思わないし、むしろ、男性から客観的にみたらなんてひどい女だろうと思われても仕方ない。 我慢して踏ん張ることをしない悪い女に感じるだろうと思う。

・・・今は複雑な心境でもあるが。 R氏が 好きだ。
 好きだ。 彼を毎日、好きになる。

・・・・・マンションの下駄箱の上に鍵をおいて。置き手紙には「今までありがとう。私はあなたを忘れないけど、あなたは私を忘れてください、私のことは忘れてしあわせになって。」と記しただけだ。そしてその時、 R氏のことも忘れようと思っていたのも事実だ。諦めなければいけないのだ。もう恋は二度としないって。誰も本気で好きになるまいって泣いていた。

私がマンションを飛び出し、行方をくらましながら。家出をして出した離婚届けはきちんと受理されてからしばらくしてからだった。 「本社異動のため、不本意ながら転居します」 と元夫から連絡が来た。 猫たちは?  ともきていた。他にもいろいろメールは来てはいたが返信しなかった。 私は彼の新しい住まいはきいてはいない。 お互いの現在の住所も知らない。 わからなくなった。 忘れよう、忘れようともがいて必死な自分がいた。 そしてあの人も今ではきっとそうなんだろう、と思っている。

元夫婦。愛しあったしあわせな時間もかつての暮らしには確かにあった。

つい最近だ。R氏は声を荒げた。夕飯の時に私が二階へふいっと逃げたからだ。

夫から逃げ、葛藤があったのは確かだ。あと、SNSのことも彼は俺には話すな、とも言っていた。短期間にいろいろありすぎてつまずいた時期が重い荷物のようにのしかかってもいた。ひとり窓の中の闇を見ていた。
いつも星を眺めていようと誓ったのに。


私には  これは私の業の罰だ。と思わなければならないことが最近続いた。

・・R氏に迷惑をかけたくない。

だけど、私がまだ過去をわすれきれていないこと、引きずり、そしてすぐに「 もう、 いい  」と別室にこもる。私はとあるキーワードが出てきたら凍りつく。会話を遮る。以前の生活に、いつまでも過去に振り回されている私にR氏はとうとう大声で私を怒鳴った。

ゆーさん!どうしていつも逃げるの!二階にあがって一人で何してる!で!俺だって貴女の何気ない言葉に傷ついたりもしたんだ!
階下に降りておいで!!自分勝手はやめないか!!


私は男性の大きな声が怖い。R氏の大きな声に心が震え、怯えた。私のトラウマ。大きな怒鳴り声でずっとそれに怯えてきた生活が長かったのだ。

半年一緒に暮らしていてね。貴女の悪いところもわかっている。すぐに逃げ出す!貴女は逃げるじゃないか!逃げたらいいって思ってる。俺にも苦悩の過去はあるけど俺はなんも言わないよ?貴女に。なんか俺が貴女に言った?

俺には貴女の過去は関係ないし、俺と前のご主人は全く違うでしょ!?一緒にしないでくれないか?何故にすぐに逃げて黙る。貴女の態度悪いわ!それなら貴女はそんな覚悟があるんだね?ひとりになる覚悟が!!なら俺ははっきり言うよ! 
  

別の部屋で過ごしてひとりになる。それは私なりの処世術でもあった。険悪になれば他の部屋で頭を冷やして冷静で慎重に考えなければ、と。 パートナーから逃げるのが私には最善だった過去が確かにあるからだ。

激昂して階段の下からR氏は叫んだ。

いい!よく聞いて!貴女は1人になる覚悟があるんだね?あるんだね?なら俺ももういい!!


そうだ。  かつての夫とR氏は違うのだ。彼の過去の傷口に塩を塗ったような言葉を私がたくさん吐いたのは確かだ。無神経な自分に腹をたてながら、少しずつでも変わらなければならない。彼の優しさに甘えるだけではいけないのだ。
こんなに愛しているのに。人は簡単には変われないなんて自分に言い訳している。

・・・失いたくない。R氏を失いたくない。

かつての生活では「 何を言ってもケンカになる 殴られたりするし恫喝される。蹴られたりしてケガをする。 だからとりあえず距離をおく。相手から離れる 」だったのも、私が私が私をなんとかするために必要な措置だったのは確かだ。

自分ができること。避難する。それが自分への救済措置だった。

よくよく考えたら過去ばかりに足をとられていまだに泣いている私を黙って受け止め続け、R氏はずっとずっと優しくしてくれていたのに。


貴女が離婚した理由は貴女にも原因がある!ちゃんと言わせてもらう!人の痛みがわからないのか!わかっていやしない!ひとりならいい!
貴女ひとりで生活しているわけでは無いでしょ!わからないのか!?何回も言ったよ?貴女がひとりで暮らしているならね?俺が一緒だって忘れていないか?俺のことは全く貴女は考えていないっ!めんどくさいっ!!!


反省もあったがいろんな想いが交差したりして。複雑でそれからしばらく私はまるで自分をロボットだと思うようにした。私は機械なんだと。機械みたいに喋り、振る舞い、そして、感情のない返答をしていた。人形みたいに。 そんな女といて面白いわけがない。もし、これが逆の立場ならば私は相手を疎ましい、もういい、って思うにちがいない。


やはり私はすなおではないからひとり暮らすのがいいのかもしれない、と一昨日まで考えたりもしていた。

複雑な気持ちが交差して真夜中にひとりきり。やはり悩んでいた私がいたし、R氏やかつての夫の戸惑う気持ちをわかってもあげられない、R氏にも思いやりが足りなかった私がいる。

その夜、休む時に表情もつくれず無理に笑った私にR氏はこう言った。


・・・なぜ笑うの?今のタイミングで笑うの?俺をばかにしてるの?なら、もういいわかった。


どうしてよいのかわからなかっただけだ。だけど、何を言ってもそれは言い訳にしか聞こえないだろう。


嘘つきだね、大嘘つきだ!貴女自分は悪くないってことしか言わないよ?嘘つきはどろぼうの始まりだ!貴女は人の心がわからない。自分が良ければいい。自分勝手だ。自分のことしか考えていない!

  そうね・・・私は人を騙したりはしないけど自分には嘘をついてる。嘘つきかもね・・。    


かもねじゃない!もういい!!わかった!!貴女は自分さえ良ければそれでいいんだね!!!めんどくさいっ!覚悟があるならそうしたら?そうしなさいっ!!ひとりになりなさい!!!


そう言い捨て、R氏は私に背中を向け、怒って寝てしまった。


アネモネの花言葉は本当なのかもしれない、なんて悲しくなり、私は途方にくれた。何を言っても私が悪い。


二人でいてもひとりでいてもさみしいならどうしたらよいのだろう。 誰も憎みたくない。 大好きな人に甘えただけなのに。 甘えた私が彼に甘えすぎてわかって欲しいと自分の苦悩の過去を話し過ぎた。ここに来てからいつもR氏と一緒に夜空を眺めて星を見た。いつもの星も
真っ暗な夜空には一つも瞬いていなかった。


   R氏の怒り。 これは 私の罪への罰だ。

星のない夜空。  闇夜には足元を照らす灯りはみえなかった。


女っておしゃべりすぎる。
私は最低だ・・・。 自己嫌悪がまた襲いかかる。いたずらな時間だけが過ぎていく。

このまままたうつむくのか。うつむいて罪を引き摺り、ひとりきりで。 またひとりきりで。
涙は出なかった。いつもは泣いて、泣きわめくのに。 それすら私はできなかった。


以前の夫の元には決して戻らないし、なぜ私は余計なことでR氏を怒らせてしまったのか、こんなに私を大切にしてくれている人を。  
                   私はバカだ。


どこへ行こう。猫もいる。・・・。行くあてはない。大好きな人から嫌われてしまったかもしれない。 ひとりきりでどこに行けばよいのだろう。 行き場を失いまたさまようのか。

    ただただ、途方に暮れていた。


媚びたりはしたくない。
私が悪いのはわかってはいるけど。素直に謝れない。

わざわざ1日費やしてドライブに私を連れ出してくれたり桜や海を見せてくれた優しいR氏にまだ私は100%の素直さを出せないでいた。

ギスギスしていて。 やり過ごしていた真夜中にきた短い一通のメッセージ。


元夫からのメッセージ。 貴女が生きている。それだけでいい。みたいな文章。 それが私には  「 元気でな  しあわせにな! 」って聞こえて。 その想いが伝わり、そして。  ふいに私は解き放たれたのだ。元夫の言葉に救われた私がいた。

それから。

あんなに怒っていたR氏はいつものように仲良くしてくれてやっぱり抱きしめてくれた。笑っていて。貴女は笑っていて。そう言ってくれた。

令和二年。 河津桜の濃い花色の美しさよ。散らないで、できることならいつもいつまでも咲いていて。

そうだ、私はしあわせになって生きていくんだ、時計を巻き戻すことはできない、前に進み、歩いていくしかない。

・・・・もうじき私の誕生日がくる。
そのメッセージは私への元夫からの最後の贈り物だったのだ。二度とは会わない、会えないかつての妻への想いがそこにはあった。

ちゃーちゃんが私の横ですやすや寝ている。R氏はいつもみたくむにゃむにゃ寝言を言いながら眠っている。早咲きの桜はあんなにも美しい花を咲かせていて。木漏れ陽ならぬ桜花の中に太陽が輝いていたではないか。


振り切って。すべて捨てる気で。 無茶をしてマンションを飛び出して。 泣いていた私はR氏からの連絡をもらい、出奔先からまた逃げて。飛行機、バス、タクシー、そして新幹線。 長い時間泣きながら一晩だけ遠くにいて九州に帰ってきてしまった。主を思って一夜で都から飛んできた飛び梅のように。九州に舞い戻り、飼い猫を抱えて街を出た私はR氏に迎えにきてもらった。R氏のうちに受け入れてもらった。  貴女は俺に必要な女性だ って言って抱きしめてくれた。 毎日、 毎日抱きしめてくれた。 今ではたったひとりのかけがえのない恋人。 そして連れ人。


私はしあわせになって、今度こそパートナーもしあわせにする。

R氏と新しい 「voyage 旅 航海」  をするって決めたはずだ。

ケンカのあとはさみしい。ごめんなさいが言えなくて。目線を合わせられない。大好きだから仲直りしたいのに。

うまくできない自分がいる。

元夫からのメッセージを読んだあと、その優しさに考えさせられた。

貴女が生きている・・・ 私は幾分楽になったような気がした。

まっすぐちゃーちゃんとR氏に向かい合って三人の生活を大切にしていく。R氏は私の人生を変えた男性でもある。
赤いアネモネ・・。花なんて興味ないR氏が  きれいだね、って言ってくれた。

赤いアネモネが揺れている。きれいに開いてアネモネがニコニコしてる。

池の鯉はまだ生き残っていた。鯉の赤ちゃんが ぴちゃん!と跳ねている。 今、私は愛する喜びを再び取り戻した気持ちが強くある。
このままずっと笑って彼を愛していくからと彼に抱かれて眠る。

いつも先に謝ってくれた大好きな人を怒らせた。
またケンカもあるだろう。一緒に暮らしていればいさかいもあるだろう。相手の気持ちになり、謙虚に彼を愛していくようにしよう。 次は私がすぐに謝ろう。 頑なにならないでごめんなさい、 私が悪かったって。 私から素直に折れてR氏を思いやり、 いたわり、 慈しんでいこう。メールのことはR氏には話せないが。 忘れられたらどんなにか楽だろうか、 の文字が私の心に響いて。 あぁ、これで良かったのだと。 愛し合っていた歴史を否定せず、 煩ってばかりではなくもっと素直に今を生きるのが大切だ、 って。 前にしか進めないのだ、 って。

ふと、前の夫の大きなあたたかかった手の感触を思い出した。
私がいたらなかった。不器用な性格な男だった。よく私を叩いた。殴り、蹴った。 出会った頃は貧乏生活だった。 お金に困り、食べるものに困り、スーパーで頭を下げて捨てるキャベツの外っ葉をもらい、それを料理にして。 ドレッシングは買えなかった。37円のサイダーでドレッシングを作ったのを覚えている。おいしい!と笑ったあの人はあの頃確かに私を愛してくれた。   ・・・・・それから私自身がR氏に言ったのだ。   私は人を愛した歴史を否定しない って。

終わった恋は忘れよう。私はあの人を愛していた。 そして、あの人は今も苦しんでいる。 だからこそ私はしあわせにならなければならないのだ。 それがきっと、私に関わり優しくしてくれた人達への恩返しになる。 私が本当の笑顔を取り戻すこと。 今の愛を、現在の恋人のR氏を大切にすることが私の罪の一番の償いであり、それが私の未来を照らす灯りになるのだって信じている。

また海へいこう。  早咲きの桜を見た日にR氏と二人で海を見渡せる展望台に登った。 

展望台からの美しい輝く青の世界を二人して見たのだ。 あの夏の日に泣きながら飛行機から見下ろした同じ海が広がっていた。その穏やかな表情は大きく優しく、深くどこまでも美しかった。
波の向こうには私の大切な何かがあるような気がする。

海の向こう側には私の愛が、私への愛がある。 

さらさらした砂浜を素足で歩いてみよう。これからもっと暖かくなる。素足に浜辺の砂は私の足跡を刻み、また、新しい波が洗い流してくれるだろうから。

私の心も洗われる。あの人に今度こそさようならを言おう。
海鳥が風の中を泳ぎ、空を舞うのを眺めて。 さようなら、あなた  と海鳥に私の言葉を運んでもらおう。

R氏とのまだ始まったばかりの新しい生活を笑えるように。 水平線の彼方を。 波の果てををまっすぐに見据えて。帆を張ろう。舵をとりながら、コンパスをみて。風をはらませながら新しい船で私の旅は始まっているのだから。夕凪を感じる穏やかな時間を大切にして。
船旅。乗組員は一匹の猫と私。
いつまでも。私の髪が真っ白になってもR氏は笑ってくれるだろうか。
  
手を繋ぎ、R氏と眠ろう。そして私は決して二度とつらい過去は振り返りはしない。かつての夫のためにも。  そして・・・・大切なR氏のためにも。何よりも愛しい愛猫ちゃーちゃんのためにも。


貴女は貴女らしくしていていいんだ・・。   R氏はいってくれた。

晴れた日は海へいこう。紺碧の青にR氏を想いながら。

海岸まで迎えにきてくれる。 しょーがねーなーって顔をして。タバコをくわえて笑う顔をみたいから。



小さな橋の欄干には海猫が一羽とまっていた。

その羽ばたきは力強く、たくましく、そして美しかった。  fin. 

    ゆー。

  


あとがき。

これを書いてから現在、私とR氏の間にはかなりの変化がありました。
別れたわけではありませんが。でも、何かが違うって違和感を覚えるようになりました。  彼は相変わらず経済的な支えにはなってくれてはいますが些細なことが原因で、私は以前みたいにはしゃげなくなりました。彼は変わりませんが、ほとんど笑わなくなった私と、いつもの彼の生活が現状です。
どこかでまた何か間違えたのか。 あれから海にも行けなくなりましたが。  昨年植えたアネモネが可愛らしく芽を出してはいますが花が咲くのを私は見られないかもしれない、それが今の気持ちです。見たいな、二年目のアネモネ。本音です。  そう。 貴女は貴女らしくしていて、は彼のあくまでも彼の理想的な女性でいてくれっていうことであり、本来の私が私らしくしていては、R氏の前ではダメなんだってわかりました。  ・・・昨年夏の終わりに買った花火の残りを悲しく見つめています。 



 そののち。もう霜月も半ばになった。寒い。昨年書いたnoteを読み返してみた。

R氏シリーズは今のところ再開予定は未定になった。 

私と彼はこれからどうなるのだろうか。一緒にいたい気持ちとは裏腹にいっそ離れて暮らしたいと思いつめたりしている。だけど彼はやっぱり私とはどこか違う気がします。優しいのど義侠心は違うし、成り行きでこうなったのかな、とさみしくなります。

あとがき そのⅡ

その海猫は今でも心に焼き付いていて、どこかに大きく羽ばたいて行きましたが、クリスマスを前にして、今年一番の  優しさ  をくれたのはR氏ではなくて他ならぬ元夫の最後の贈り物だったのだ、としみじみ思う冬の夜です。あの海猫みたいに私は飛んでいきたい。  どこへでもかまわないから。  つらすぎるから。 R氏を好きな気持ちは以前と変わりはないけど。  変わりはないけど。

    読んでくださった皆様。   
 
    本当にありがとうございます。 

あなたは蝶々の羽をむしったことがありますか。はばたけずもがく蝶々を嘲笑ったことが誰しもあるのではないでしょうか?  綺麗だ、と捕まえ逃げたいと暴れる蝶の羽根をむしった子供の頃の記憶はありませんか。
誰しも似たような経験があるのではないでしょうか。


この元のお話し、  あれから。  はR氏に包まれて現実からも事実からも逃げていた、はしゃいで無理をしていていろんなことを忘れていた私がまだ寒い2月に書いたものに少し手を加えました。

今も彼、R氏は毎晩いつものように隣で寝息を立てています。

けれど。

・・・。   未来のことはきっと誰にもわかりませんが、ただ、これを書いていたまだ寒い2月は私は確かに  優しさにふれていたのだろうな、と思うのです。そして、無理をしていてはしゃいでいましたから。

Rさん。優しさをありがとう。

Rさん、ありがとう。助けてくれたね。あのとき、見知らぬ土地で泣いていた私を助けてくれたのはRさんでした。素直で無いとあなたは言うけど。媚びるのは、嘘をついて生きるのは苦手なだけだから。この先私たちはどうなるのかわからないけど。 でも、ありがとう。


そして、貴方。元の夫へ。優しさをありがとう。

○○ちゃん、(元夫)、ありがとう。私を追いかけないでくれた。確かに私を愛してくれていた。

またクリスマスが来る。

来月。  12月24日。  クリスマスイブが来る。  私とR氏の二度目のクリスマスイブ。  そして、○○ちゃん、48歳のバースデー。おめでとう。あなたのもとには帰らないし帰れないけど。貴方の仕事は本当に激務だから体は大切にしてほしい。


二人とも私に優しさをくれた。 私は あなた達二人の優しさにふれた。

だからこそ私は今、生きている。

二人の優しさの違い。

その優しさの違いは蝶の羽根をもいで、なんにも思わずにその蝶をかわいそうだな、と、かごに閉じ込め、蝶々が生きられるように温かな部屋で砂糖水を与えた少年のものと、また、捕まえたこの蝶々の羽根をもいではならないと外にそっと放した少年の悲しさのそれとよく似ているってあらためて思うようになってきたここひと月の私の変化だと思っている。

そう。  前者はR氏。後者は元夫だ。

   私に優しさをくれた二人の愛しい人よ。  ありがとう。  生きていくから。        私はちゃんと生きていくから。

     
     ゆー。

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姫崎ゆー
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