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でも なにかが 違う。

昨夜も眠れず本を読んでいた。

たかが漫画だとか笑わないで欲しい。

真夜中遅くに足りなくなるのを承知でハルシオンを飲み足す。

いやな夢を見た。
昔に付き合っていた男だ。もはや顔すら普段は忘れている。20年くらい前に知り合い付き合った男だ。

知らない家なのになぜだかその男の家だと夢の中ではそうなっていた。顔すら知らない彼の父親まで姉まで出てきた。

ゆーちゃんの部屋に今日は泊まるから、とか男が言っている。
ダメ!私は今……        話そうとしても声が出てこない。
ゆーちゃん、風呂はこっちだから、と腕を引っ張ってくる。
まるでそれはまどろっこしい重たいスローモーションみたいな動きで。
シャワーの横に灰色のシンクがある。ここで?ウソ、と歩くのだけども足が鉛のように長い廊下でもがいていて目が覚めた。

背中に汗をかいていた。ここは?

…よかった。夢だ。なぜ今頃夢に出てくるのだろう。その夢には以前の夫もR氏も出てきた。出なかったのは私の声だけ。嫌な気分になった。

シャワーを浴びた。
パソコンを立ち上げた。タブレットも電源を入れた。

しまった!マイクロソフト、パスワード忘れている。こないだ変えて保存してない。

昼間にR氏から電話。
なんでもないふりしてごめんなさい、Skype使えないのとか謝る。

とりあえずメールの類いに目を通す。また詐欺メールだ。こんなのに引っ掛かるかアホか、と「新しい給付金がもらえる」URLを無視してゴミ箱にいれた。差出人はひらがなで「ぎんこう」。こんなのに引っ掛かるアホがいるのか、と呆れる。

食欲がない。

R氏には午後から外に気分転換しに散歩かなにか行くと言ってあった。

台所と洗面所を片してから自転車で街を走る。

駅辺りまで走ってから公園で少し休む。

なにかが歪んでいる気がする。いいお天気なのになにか違う。

日が暮れないうちに帰ろう、とお堀の鯉が跳ねるのを見るもやはりなにかが、なにかが違うように感じた。

今さら空腹。こらえる。週に何回か訪れてくれる人にHeinekenを冷やしてあげていたい。節約だ。帰れば食べるものはある…。

初めて見るレストランの看板の下に、猫がいた。お店の奥さんが    かぼちゃん、かぼちゃん、と呼んでいる。

      写真撮っていいですか?

奥さんはどうぞ、とガラスを拭きながらうちは創業50年ですよ、猫の名前はかぼすです、と私に笑いかけてくれた。

お腹すいた。少しのお金はお財布にある。だけどやはり我慢した。

自転車をこいで。歪んだ街を走る。いつもの橋も蜃気楼みたいに消えるのではないか?と不安に思えた。

怖い。なにかが怖い。

ちょっと!あんた、もう少し前に行ってよ!

交差点で信号待ちをしていたら知らない女性に怒鳴られた。歩くゆとりはあるはずなのに。私はごめんなさい、と謝り自転車は車道に中途半端にはみ出す。

信号が変わり歯を食い縛り全力疾走して去る。

マンションに着いた。
しばらくこの歪みはなんだろうか、と悩む。

あ、とR氏に電話をかけた。明日、こないだの洗濯物を持っていくね、と言いたかった。なのに歪みは私を許してはくれない。

明らかに不機嫌な声でつっかかってくる。カラカラと氷の音がしている。嫌な気分にさらに嫌なことを言われた。

ここ数日鬱陶しいんだよな。

私は言葉が出なかった。

確かにマイクロソフトのパスワードもパソコンもあの人には関係ない興味のない話しだろう。私もはっきり言って彼の仕事や友人の話や乗ったことない車の馬力なんか楽しくないがふんふん頷いて聞いている。

会ってもない。昨夜は寝る前に、と自分から電話をかけてきたのに鬱陶しいなんて。

甘えてるんよあなた、とか、金遣い荒いんじゃないの、とかそんなこと言わないで欲しい。

そんな詐欺メールなんか俺には来ないから知らないしあなたが撒いた種なんだからクリーンになったら?

私が何の種を撒いたのか。疑問だ。

私は歪みからもがいて抜け出した。いや、抜け出せた。

明日はよしにしますね。こちらからはしばらく連絡はしません。ごめんなさい。

SMSは案外高額だから使いたくない。

あの歪みはなんだったのだろうか。

脳裏をよぎる再建手術を先に伸ばそう、と。

自分で作れないの、本。卒業文集みたいなやつとか?作ってからなにかしたら?

もて余していた怒りがクラクラ燃えた。

私は学生時代に高校で文芸部にいた。機関誌の構成やいろんなことをあの薄っぺらい生徒がポイ、とゴミ箱に放るような高校の機関誌を作るのにどんなにか苦労したことか。

嫌なことからは距離をおくべきだ。機嫌が悪いなら、ひいては親子で私を嫌いならそれはそれでいい。

しばらくHeinekenを買わなくてよさそうだ。

しばらくはひとりでいる。いつか戻るかもしれないが。

ひとりでいる。歪みに捕まりたくない。彼が私を嫌いでも私が変わらないならそれでいいのだから。
     
         ゆー。

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姫崎ゆー
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