冥土・made・mind
相対するは2つの影。
ひとつは古風なヴィクトリアン・メイドの格好に身を包んだ、眼光鷹を思わせる金髪美少女。
ひとつは猫背、今にも朽ちそうな編笠と襤褸を着けた、浪人風の仮面男。
メイドの得物は王室御用達のロイヤル・ダブルライフル。浪人が携えるは長さ三尺ばかりの鮮血滴る日本刀。メイドの背後には、腰から下を寸断された無残な女性の死体が転がっている。同じくメイド服に身を包んでいたであろうということが、遺体に残された布きれとヘッドドレスから、辛うじて窺える。
(師匠――――)
今は物言わぬソレは、かつて彼女――イザベル・カールトンの直接の師であり、イザベルにメイドとしてのしきたり・生き方のすべてを教え込んだ女傑だった。戦闘力もメイド力も歴代でずば抜けた英吉利従女協会序列1位のエヴァンジェ・ビーナインは、出鱈目に日本刀を振り回す浪人に斬られ、そして死んだ。
イザベルにもエヴァにも、特段死を恐れる心はなかった。ただ、相手の力量を見誤っていたということに関しては否定できない。
浪人は中肉中背、日本人の男で、三百年の永きに渡って生きているということを除けば、何ら変哲はない。また、膂力と殺人欲求が異様に強いということも――特筆すべき点ではあったが、今更それが何の意味を成そうか。師匠はその異常な腕力に斬られ、殺人癖によって殺された。それらはすでに過去のこと。
「――知らざぁ」
浪人はぶらりとした体勢のまま、独りごつるように呟いた。
「言って聞かせやしょう」
途端、正眼の構え。祖母が日本人のイザベル、浪人の言葉も少しはわかる。それが「カブキ」の名乗り口上だということも。
ゆえにイザベルは銃口を向けた。それ以上、お前の言葉は聞きたくない。その意思表示だった。
「行くぞおおおおおお!!!」
「上等おおおおおお!!!」
今こそ、禁忌とされる英吉利従女流極限奥義の出番である――!
(つづく)