参径

小説を中心に書いています。

参径

小説を中心に書いています。

最近の記事

  • 固定された記事

ハイブリッドカー売りの老人

 仕事帰りの私が迷い込んだのは、いかにも怪しい商店街だった。  しかもここ、どうやらただの商店街ではないらしい。 「安いよ安いよ!ベスパが安いよ!」 「さァーシーマにレパードにスカイライン、なんとヴァイオレットまで揃ってるよー!買わなきゃソンソン、見るだけでも寄っといで!」 「らっしゃーせ〜タコマにセコイアにハイラックス、舶来モノならお任せくだせえ」  ……食品や雑貨のノリでクルマやバイクが売られている。どう考えても異常事態だ。しかし店の軒先には、中古車らしきクルマたちがお

    • Fire, sometimes, blasts

       ホールドオープンしたグロックに新しい弾倉をねじ込んで、かと思うと掴んでいた手摺りに銃弾が直撃する。 「くそっ!」  尻込みしている隙はない。先行する敵に向けてグロックを撃ちながら、俺は螺旋階段の段板を蹴飛ばして先へ進む。ゴールは屋上、待機中のベル・エアクラフト212ヘリコプタのもとへ。先着は一名だ。  長い階段を抜け、外気と光が襲いかかってくる。目標の機体と、遠ざかる背中が見えた。これなら直線になる。横風を考慮しても、偏差射撃で当てられる。俺は引き金を絞った。  人殺しは

      • Twitterが凍結されました(現在は解除済み)

        ウィーーン……ガシャン……ピピピピ……(宇宙船のハッチが開く音) ふぅ……参ったな、まさか俺ともあろう者が凍結されちまうなんて……いやまさかマシュマロ自動募集してただけで凍るとは思わないだろ、イーロンの野郎ふざけやがって noteをご利用の皆様こんばんは。参径(@datsun_hyrax)です。2月3日朝にTwitterアカウントが永久凍結を受けました。よって緊急でnoteを回しています。 凍結については異議申し立て済みですが、正直なところ現在のTwitterの

        • ニックの一番長い日

                         Ep.0 受難  僕の名はニック、しがないフリーライターだ。  きょうは、とある山の中にある、廃屋となってからもう長い、それでもしつらえは随分立派な屋敷の調査に来ていた。クライアントはオカルト系の三流雑誌。おおかた、そういう怪異のがらみの噂を聞きつけて、ネタにしようと意気込んだのだろう。僕はオカルトにはまったくといっていいほど鈍く、かつ向こうの金払いも悪くなかったので、必要な道具だけ取り揃えて、意気揚々と愛車に飛び乗った。  雲行きが怪しくな

        • 固定された記事

        ハイブリッドカー売りの老人

          死刑囚52号

          【死刑囚52号 序 過去について】  独房暮らしも長くなると、看守が長い長い廊下の先のドアを開けただけの僅かな音でも判別がつくようになる。  足音は徐々に大きくなって、おれの檻の前で止まった。囚人を入れておく独居房に「檻」などという表現は不的確かもしれないが、とにかくここはそれほどにひどい場所だった。 「――52号」  死刑囚52号。それがおれの名前だ。本当の名などとうに忘れた。 「少しばかり『用』ができた。出てもらうぞ」  声の調子で、いつもの看守ではないな、と悟

          死刑囚52号

          冥土・made・mind

           相対するは2つの影。  ひとつは古風なヴィクトリアン・メイドの格好に身を包んだ、眼光鷹を思わせる金髪美少女。  ひとつは猫背、今にも朽ちそうな編笠と襤褸を着けた、浪人風の仮面男。  メイドの得物は王室御用達のロイヤル・ダブルライフル。浪人が携えるは長さ三尺ばかりの鮮血滴る日本刀。メイドの背後には、腰から下を寸断された無残な女性の死体が転がっている。同じくメイド服に身を包んでいたであろうということが、遺体に残された布きれとヘッドドレスから、辛うじて窺える。 (師匠――

          冥土・made・mind

          雨を見たかい

           しばらくは大口の仕事を入れてくれるな、と何度となく言った筈だが、連絡会の方々は老いぼれゆえかどうも耳が遠いらしい。いっそその耳ごと切り落としてやろうかと思うくらいには、私はいらついていた。 「次の標的だ」  マルコは苦虫を噛み潰したような顔で言った。私の性格をよく熟知している彼は、私のご機嫌がアルファ・ロメオの電装系並に気難しいということも理解していた。 「消すのか?」  私はコーヒーを啜りながら言った。  あまり無駄に怒りたくはないが、条件の悪い仕事というわけでもなかっ

          雨を見たかい