映画「ソング・オブ・ラホール」感想
パキスタンの伝統音楽の演奏家を中心とするオーケストラ「サッチャル・ジャズ・アンサンブル」についてのドキュメンタリー。
ラホールというのはパキスタンの都市の名前。
豊かな歴史を持ち、ムガル帝国の首都だったこともあるという。
70年代のイスラーム化の波、90年代からのタリバン台頭などにより、パキスタンの伝統音楽は衰退。
演奏家たちは転職を余儀なくされたが、音楽を愛する気持ちと、父や叔父から受け継いだ文化を守りたいという思いから、密かに演奏技術を磨き続けていた。
演奏家であることが周囲に知られると蔑まれる。精神的にも経済的にも報われることのない日々。
国内に発表の場はない。
それではとYouTubeで世界に向けて発信したところ大ヒット。
ニューヨークに呼ばれてジャズミュージシャンのウィントン・マルサリスらと一緒に演奏することになる。
しかし不慣れなこともあり、セッションはなかなか上手くいかない。
ここの場面はけっこう不安だった。
対立する文化の架け橋になりたい、父たちが残したものを伝えなければと気負えば気負うほど、演奏家たちはいつもの調子を失っていく。
本番ではなかなか格好良い演奏になっていてホッとした。
マルサリスが率いるビッグバンド以上に、その音楽は「ジャズ」である気がした。
もしかしたら、
「ジャズ的なリズムやメロディーを持った音楽」
ではなくて、
「虐げられた者の悲しみや、ささやかな喜びがこもった音楽」
を「ジャズ」と感じるのかもしれない。
世界に認められたことでようやく「サッチャル・ジャズ・アンサンブル」はパキスタン国内でも演奏会を開けるようになった。
苦境にあっても練習をやめなかった彼らに拍手を。