「石内都 肌理(きめ)と写真」展感想

 2017年の12月から2018年の3月まで、横浜美術館で開催されていた、石内都さんの写真展の記録です。

 石内さんの写真のどこが良いか、正確に言葉にするのは難しい。
 撮られるべきものがきちんと写っている。
 余分なものも足りないものも過剰なものもない。
 それを基本とした上で、胸の奥の方にじわじわと来る何かがある。

 塗料のはがれた壁や、年老いた人の肌の質感。
 ざらつきやしわ。それを作り出した歳月。

 痛みはあるが「痛々しい」のではない。
 もっと静かで深い疼き。

 傷と傷跡は違う。
 傷跡は「治っている」
 記憶だけを残して。

 私は浅はかさを罪だと考えている。
 浅はかさは人を傷付けるし、物事の解決を難しくしたりもする。

 人間には表面しか見えない。
 今現在の姿しかとらえられない。

 でも物事には、内側もあれば過去もある。
 表面から、内面や時間の積み重ねを正確に読み取ろうと努力することが、浅はかさから抜け出すための道になるのではないか。
 誤読をしてしまう可能性も十分にあるけれど。

 「分からない」のが世界や人間の本質で、もし「分かった」と思ってしまったら、そこには何らかの技術か作為かまやかしが存在しているのではないか。

 簡単に答えを出さないこと。
 考え続けること。

 フリーダ・カーロの遺品の写真が会場で一番華やかで、美しかった。
 色彩がぱあっと明るく、フリーダの悲しみより、彼女がそれを選んだり、身に付けたりしていた時の喜びの方が強く伝わってきた。

 会場には展示されてなかったけれど、石内さんが撮影した荒木陽子さん(アラーキーの奥さん)の写真もあるらしい(写真集のタイトルは「1・9・4・7」)
 写真美術館の図書室あたりで探してみよう。