【300字グルメ小説】おばさんの玉ねぎと卵のみそ汁

 俺の親父は悪徳商法の支店長をしていた
 売上げが良かった奴だけ呼ばれるパーティーに俺も連れてゆき
 ローストビーフとか生ハムメロンとか
 生まれて初めてのものをずいぶん食べた

 事務所には化粧の濃いパートのおばさんがいて
 片親で育つ俺を憐れんだのか
 お湯を沸かすための小さなコンロで
 玉ねぎと卵のみそ汁を作ってくれた

 柔らかい甘い玉ねぎ

 おばさんは旦那と子供がいるのに
 俺の親父と出来ていた

 騙すつもりが騙されて
 親父は自己破産し俺は親戚に預けられ
 それ以上は話したくない

 思い出すのはみそ汁の味と
 親父はあのおばさんに本気だったんじゃないかということ

 確かめようにも親父はまだ生きているのか
 何十年も音信不通で
 俺は心底ホッとしているのだけど