〈走りだすとき、少し足下を〉:【アーティストと向き合う】その4
俳優や芸能人は、多くの場合、仕事、舞台や撮影の際の事故に関して、労災などの保険制度はありませんでした。撮影現場、舞台での事故などは、基本自己責任で、日本俳優連合の理事長を務める西田敏行氏は、モンゴルでの映画撮影の際、大きな怪我を負いますが、その負傷に対する労災などの補償はありませんでした。
詳細はよくわかりませんが、よっぽど大きくて、かつ、考え方がしっかりしている事務所でなければ、そういうトラブルを含めて生活を守ってくれることはないようです。
俳優、芸能人というのは、基本的には個人経営で、所属する芸能事務所というのは、営業を中心にマネージメントをすることをしているようです。
この点は、画廊とアーティストの関係に近いかもしれません。
コロナ禍の際、不要不急というかけ声で、多くのイベントが休止、もしくは延期に追い込まれました。
それが、実際の収入や、生活の支えに、いかに影響を与えたかは、周辺の人間にはわかりようがないですが、僕は知らないですませたくない気持ちはあります。
日本俳優連合の森崎めぐみさんは、事故や収入保証につながる制度改正に取り組んできました。2021年に芸能活動に対する事故は、労災の対象となるように制度改革が行われ、それを受けて、芸能従事者の労災保険の窓口となる全国芸能従事者労災保険センターが立ち上がりました。
僕は、芸能従事者に美術系のアーティストが含まれる可能性はないか、森崎さんに尋ねてみたことがあります。美術そのものは芸能ではなく、無条件に入会できるのは難しいようです。
けれども、労災というものが、会社や組織における業務による事故に関するものを扱っていたところから、個人で活動する方、つまり集団から個人へと移行していっているという流れを考えると、美術関係のアーティストも労災につながるような制度を構築できる可能性はあると思います。
僕は、アーティストの方達にも、この件に関して少し知ってもらえればと思います。