【画廊探訪 No.052】“距離”(ディスタンス) ――イワタ・マユコ作品に寄せて――
“距離”(ディスタンス)
―――The Art Fair 「PLUS―ULTRA2014」Gallery龍屋 イワタ・マユコ出品作品に寄せて―――
襾漫敏彦
引き離された“壁”の向こうから聞こえてくる音。微かな音の源では、多くのことが起こっている。しかし、それを知り得ぬ壁のこちらの私は、様々な物想いにふける。
イワタ・マユコ氏は、力の加減を探りながらボールペンで線画を描く作家である。彼女は、支持体となるケント紙に様々な色彩を浸していった。最近は、珈琲の成分を溶かした液体をケント紙に浸み込ませていく。計算を越えた褐色の模様は、彼女に想像の方向性を与えていく。
色彩の浸み込みは、様々な意味を彼女に伝える。星と銀の織りなす模様は、闇の中の光を珈琲の褐色は、時の厚みを紙に封じこめていく。意図せぬ力で描かれる模様は、未知の意図と作家の間の“距離(ディスタンス)”を形づくっていく。そして、それは、闇として時として意識されていく。
投げ出された哀れな存在である我等は、その鼓動に耳をすますことで、宇宙とでも名付けるべき“全体”と通じることはできよう。しかし、感じとったものは、“全体”そのものではなく、そのひとつの微かなまばたき様のものでもない。そして彼女の表現も大海に漂い消えてゆく泡にすぎないのである。しかし、その泡の中に全宇宙の関わりが絡んで流れ込んでいるのである。
“距離(ディスタンス)”を越えて聴こえてくるひとつの音に導かれて、イワタ・マユコ氏は、全宇宙に走る光跡を引くのである。
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