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【画廊探訪 No.073】紅絹にもみこまれた大気に包まれて ―――シロタ画廊 染谷みち子個展『紅絹もみ ――天と地と―― 』に寄せて―――

紅絹にもみこまれた大気に包まれて
―――シロタ画廊 染谷みち子個展『紅絹もみ ――天と地と―― 』に寄せて―――
襾漫敏彦
 人との繋がりをもとめて、個展に足を運ぶようになって、それなりの年月が過ぎました。きれいな写真を載せたDM(ダイレクトメール)が送られてくることも増えています。最近は印刷・光学の技術も進歩し、一見すると実物よりもメリハリがついて良くみえるときもあります。
 染谷みち子氏は、紅絹(もみ)の布を使い大小様々に紐を拵え、黒地の土台の上で組みあげ、絡み重ねて作品をつくります。歌舞伎の役者が着る衣装を飾る太い襟のようでもあります。全体は黒い布を背景として、上へ下へ、天へ地への流れを表現しているようです。

 「天と地」は、二つの作品が対になっています。葉書に写真が載せられた作品は、左側に置かれて、黒地の上の紅絹の紐は、下から立ちのぼり左の上の隅へと向かいます。もう一方は、上から下へと落ちてきて右下の隅に流れ込みます。写真という平面的な形に移しかえられたとき、『天と地』は、地の底からの怨念を表現するような作品に思えました。

 シロタ画廊で待っていた作品は、視覚的といういうより空間的な立体作品で、平面を走る上下の力というより、紅絹の紐同士が綾なす間隙を豊かに含む作品でした。作者の許しを得て触らせてもらうと、空気をたくわえた紐の冷たくない感覚や柔らかさが伝わってきて、つい大地に寝そべるように、体ごと触っていました。紅絹のもつ懐かしい香りが匂います。綿がかかえる大気は、包み込むような暖かさをもって肌に温もりを伝え、画像に認めた上下への力線は、体をさすってくれるようです。彫刻は触覚の芸術であると誰かから聞いたことがあります。美とは本来は、全身をもって会得するものかもしれません。

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染谷さんは、京都で活動されてますが、ハッキリしたサイトはありません。興味ある方は、ネットで、過去の展示など調べてみてください。

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