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紹介『思想の科学研究会 年報』 ーーー第二号 最初の一滴ーー
思想の科学研究会では、研究会の活動を活性化させ、外側の人にも伝えていくために、『思想の科学研究会 年報』を発行しております。
第二号 最初の一滴について紹介します。
最初の一滴 について
『思想の科学研究会 年報』(以下、「年報」とします)は、各号毎に、名称をつけています。
第二号の名称は「最初の一滴」と名付けました。これは、京都の岩屋山志明院の神降窟の鴨川の始まる一滴に由来します。
第二号「最初の一滴」は、京都の地域集会を中心に編集されました。
目次と構成
「最初の一滴」は大きく五つのパートから構成されています。
まずは目次を提示します。
第二号「最初の一滴」目 次
寄稿
志明院から帰ってきて思ったこと 後藤 嘉宏
ルース・ベネディクト著『レイシズム』を読んで 田村 一
民間にとって「民間」とはなにか 那波 泰輔
信念の不確かさについて 本間 伸一郎
特集 京都地域集会
京都地域集会『未来への扉を押したのは、』
野口良平著『幕末的思考』をとおして期待の次元と回想の次元を考える
野口良平「幕末的思考」を語る 野口 良平
『幕末的思考』から考える近代化論 那波 泰輔
質疑応答を振り返って 野口良平
『幕末的思考』と京都地域集会について 本間伸一郎
京都地域集会、感想
「京都地域集会」に参加して感じたこと 橘 正博
自分を顧みることになった私の京都地域集会 椎野 和枝
【講演への寄稿】
明治日本の朝鮮開国・考 田村 一
エッセイ・創作
大波止に上陸する 橘 正博
なぜ、ハワイ 山本英政
・海、そしてサメに奥さん
・マウイから、新ぱっつぁん、御成〜!
シリーズ「博多のロックバンド」
・博多ザ・ブリスコとその三十年 橘 正博
美の街道
・根津界隈―――『ギャラリーマルヒ』 襾漫 敏彦
論文批評・感想・論文
ミッテルの夢はどこで見るのか 本間伸一郎
感想―思想の科学研究会年報 創刊号 こんの そう
三木清のパスカル、親鸞像と中井正一における対話の論理の再構築
後藤 嘉宏
研究会の活動について
ほんのしょうかい
・神代健彦・藤谷秀編著『道徳教育読本』はるか書房
・高谷幸・奥貫妃文『移民政策を考える』人文書院
・中村江里『戦争とトラウマ』吉川弘文館
・秋山道宏『基地社会・沖縄と「島ぐるみ」の運動』八朔社
・荒井悠介『ギャルとギャル男の文化人類学』新潮社
・村瀬学『鶴見俊輔』言視舎
構成は、寄稿、特集、エッセイ・創作、論文批評・感想・論文、研究会の活動紹介の五つのパートからなります。
寄稿は、会員等の自由な投稿を基本にしています。
創刊号で連載、コラムであったものは、まとめてエッセイ・創作になりました。特に、音楽、美術、教育、文芸関連の短いエッセイ風のものと考えていました。
今回のメインは、2019年に京都で開催された地域集会をまとめた特集です。野口良平さんの書かれた『幕末的思考』を取り上げ、著者による講演記録と、それについての解説と感想を加えてまとめたものです。
野口良平さんは、鶴見俊輔さんや北沢恒彦さんが中心になって行っていたサークル「家の会」に参加されていましたが、『日本の百年』や『共同研究 明治維新』、『共同研究 転向』等の思想の科学研究会がなした歴史研究の流れを汲む在野の研究者です。
この『幕末的思考』は、非常に充実した一冊ですが、読み抜くにはかなりの力量が必要とされます。今回の講演記録は、その一助にもなるかと思います。
研究会の活動紹介は、シンポジウムの報告、サークルの紹介等ですが、二号からはほんのしょうかいというセクションを加えました。これは、サークル等で扱った本を、簡単に紹介するページです。ひとりひとりの知性を、つなぐことの一助になればと考えて始めました。
それぞれの構成や個別の原稿に関しては、改めて紹介させていただきます。特にほんのしょうかいは、個別にnoteでも紹介します。
年報は、以下のサイトから閲覧可能です。
最近、研究会のサイトは、引っ越しをしました。投稿に関して
基本的には、一般の投稿も受け入れたいと考えています。ただ、仲間内で制作している同人誌のような性格が強いので、そこを理解してもらった上で投稿を受け入れるつもりです。
まずは、投稿の案内に沿って研究会の方にご一報ください。
最後に巻頭言を掲載します。
巻頭言
『思想の科学研究会 年報』第二号、『最初の一滴』は、京都で開催した地域集会を柱として構成した。その集会の二日目、有志で岩屋山志明院を訪ねた。志明院は鴨川が始まるその一ひと滴しずくが大地に落ちる神降窟を護っている古刹である。
「思想の科学研究会」のはじまりは、雑誌『思想の科学』創刊に向けて、同人が集まった時点と考えていい。そして、社会的な枠組みが設定されたのは、一九四九年の社団法人「思想の科学研究会」の設立のときだといえよう。けれども、これはみなを一つにひきつけていく理念、そして集団の境目の問題である。研究会が今日でも存在し、その生命をつないでいるのは、研究会員の自覚と意思によって支えられているからにほかならない。そのことを頭において今日までの研究会の流れを見定めれば、大事な曲がり角が、三つあったことに気がつく。
過去に研究会は、研究会を続けるか否かを、会員に問うたことが三度あった。その一回目は、講談社から契約を打ち切られ第三次『思想の科学』が休刊となり、ほぼ同時期に「サンデー毎日事件」がおきたときであった。この時、会員に研究会を続けるか否かが問われたと聞く。会の活動の継続を決めた研究会は、三年間の雑誌『思想の科学』不在の時代を迎えた。
二回目は、「天皇制特集号廃棄事件」の際であった。様々な意見や議論が飛びかったが、研究会は活動の継続を決定し、「思想の科学社」を立ち上げ、自主刊行の道を選択した。
三回目は、二〇一三年五月、研究会は、公益法人改革を契機として、社団法人格を返上する。それまでに幾度と議論が重ねられたが、正式に成立した総会で、その決定が行われた。それでも研究会を解散しようという意見は、ほとんど出なかった。
見方を変えれば、研究会がなくなる可能性が三回あったということでもある。それでも続いたのは、ひとりひとりの研究会員が選んだからである。ひとりひとりの想いに支えられた集団に関わっている、このことに僕は責任と誇りを持っている。
“最初の一滴”から、思想の科学の運動(ムーブメント)は始まっている。そこに様々な流れが加わって大きな流れになった。その流れから別れたものもある。そして伴走するように並走しながらも合流しなかった流れもある。思想の科学運ムーブメント動は、太くなり細くなりして、今の僕たちのもとにある。
これからの時代に備えるためにも、この流れを自覚し、始まりを念頭に置きながら先人の経験に出会い直す。そして、今に戻り己を吟味し続けることが必要である。転向、集団、歴史、記号、コミュニケーション、芸術と表現、研究会が関わってきた多くのテーマがある。関わらなかったテーマや、あつかったけれども見えなくなったテーマもある。過去に遡上してそういうものに出会うとき、きっと新しい輝きが生まれるのだろう。
僕等がここで掬う河の水は、始まりの水とは全く違うものである。山中の最初の一滴を想うとき、へだたりを感じる。でも、この間にこそ、無数の輝きと無限の可能性がある。研究会が続く限り、それを明日へと送ることができる。
はじまりから今の僕等の間にあるものに出会うことを願い、最初の一滴と掲げる。
本間伸一郎