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【画廊探訪 No.059】窯変して現れる唯物の世界 ――― 大石照美作品に寄せて

窯変して現れる唯物の世界
―――art gallery closet 企画「大石照美&下河智美 二人展
     大石照美作品に寄せて―――
襾漫敏彦
 あるひと頃、時代の先端として造られた集合住宅は、近代化と経済発展の象徴でもあった。今、それは永い夕暮れの中で、死と孤独を抱えながら静かな思いの中に沈んでいる。

 コラグラフというのは、支持体となる紙に、紙や布、紐といった物体を貼りつけて、版を作る凸版の版画技法の一つである。大石照美氏は、紙に様々な素材を配置し、その上にインクの色彩を配していく。そして、版は彼の手からプレスという炉の中に投げこまれる。圧力という炎に焼かれ、新しい肉体に版は生まれかわる。分かたれた作品と作家は、その時からあるへだたりをもって存在しはじめる。

 大西氏の作品は、青や灰白色を基調とし、わずかに黄色をまじえた赤に乏しい作風である。物を媒介として表現するコラグラフの特性もあろうが、物質感に強く、生体の痕跡に乏しいように思う。そして、作品に距離をおいて鑑賞すると、物質が作品空間に投げだされて、唯物的な風景を形成している。それは、キリコの絵のもつ寂寥を思い出させる。

 近代や経済発展というものが、すでに終焉を見せ始め、氾濫する標語は根拠を失いうすら寒くすら感じる。革命の夢と共に繁栄の幻想も最早、人々に生命の息吹を与えなくなっている。大きな物語という神の息吹を吹きこまれない土塊(つちくれ)は、沈みはじめた都会の建築の狭間で浮遊する。
 物体が、作品の中で物体に転生する過程で、窯変とでもいうべき変化が生じている。それは神という原点を失った世界で、物質が転生して、バイオスフィアとなる兆(きざし)なのかもしれない。


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大石さんの作品を確認したい場合はInstagram等にあがっています。自分で検索してみてください。

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