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【画廊探訪 No.099】風景の中で翻弄される記憶 ――― 戸賀崎珠穂個展「替わるもの 変わらない」に寄せて―――

風景の中で翻弄される記憶
―――JINEN GALLERY 戸賀崎珠穂個展「替わるもの 変わらない」に寄せて―――
                                   襾漫 敏彦

風景はある視点から構成されて、はじめて画となる。見る者の視座が確立されて風景が主題となるのは、そう古い昔のことではない。G・ベームは『図像の哲学』(法政大学出版局)の中で、身近に体験していた風景から「風景画」が成立するには一定の距離が発見されねばならなかったと叙述している。
戸賀崎珠穂は、風景画家である。彼女は、厚みのある箱のようなキャンパスに、濃淡を避けた原色のような色を貼りつけるように塗る。そして風景の描写は、キャンパスの側面にも広がっていく。これは、一枚の絵画を折り曲げていく構えであり、観る者の空間を湾曲させていく表現にもなる。戸賀崎珠穂は、インスタレーション作家である。

風景画とは、画家の体験を一定のコードを使って共通の<表現――理解の世界>に翻訳することで私的な体験を共有できる経験に変えていくことであろう。そして観る者は、自分の体験を呼びおこしながら経験を刷新していく。

彼女は、面と色彩と明暗を単調に塗りわけて事物を描出していく。風景への陰と陽、いいかえれば意図とその背景に隠れるものとのコントラストとして描く。見る者の視座は、断層のような色の壁面にひきつけられては移動させられていく。それはレインボーブリッヂからの景観が変化していることに似ている。戸賀崎珠穂は、ランドスケープのキュビストである。

 彼女の風景画は、一種のだまし絵として意識と無意識の隙間をついていく。主観は、もてあそばれて、ようやく都市の中での場所を確認する。戸賀崎珠穂は、物質世界のイコン画家である。


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戸賀崎珠穂
JINENN GALLERY: https://jinens-art-studio.com/art/


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