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【画廊探訪 No.046】物と語らい、自分と語らいて ―――広瀬義充版画展『――変りゆくもの――』に寄せて―――

物と語らい、自分と語らいて
―――広瀬義充版画展『――変りゆくもの――』に寄せて―――
                      襾漫敏彦

 落ち着きを失った世の有り様を見ていると、時に暗愚といわれたルイ十六世のことを思い起こすことがある。政治より錠前作りに熱中したともいわれるが、華やかな王宮の片隅の暗い一室で作業する彼は、そこで何を見ていたのであろうか。

 広瀬義充氏は、シルクスクリーンを扱う孔版画家である。シルクスクリーンは、微細な孔のあいたメッシュを通して紙にインクを打ち込む孔版画の方法であり、最近は、写真のように感光の方法を利用して版を作ることが主流である。しかし、広瀬氏は、写真の方法を使わず手作業で孔を押しつぶし目止めをつくっていく。メゾチントのようなやり方で、原版を幾重にもつくり、重ね刷りすることで画を形成していく。丹念な作業の為か、画の表面の印象は、重さと厚み。色調は、どこか揺らぎを抱え、変化への可能性を内に潜ませる。

 沈黙と共にある長時間の作業は、版に向かう作者の空間感覚と結びつき、それぞれの版に重力の場のような方向性とでもいうべきものを付与し、遂には一つに組み合わされて、奇妙な立体感を醸し出す。

 昔、印刷とは、紙、インク、ひとつひとつの素材の性格を考え、染み込み、プレスの力、そういうものを吟味してつくり出してきた。けれども、時代の進歩は、多くの作業を簡素にし、大量の製品を生み出していく。しかし、そのために、物も工程も作業も、そして人も、基準に従わされるようになった。その過程で、ものと人が、具体的に織りなした技術(アート)という形の可能性の多くのものを失ったように思う。それ故か、広瀬氏の作品の中に、王とよばれた一人の男の小さな喜びを、つい想像してしまった。


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広瀬さんはシルクスクリーンの版画家さんです。羅針盤でお会いしました。

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