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【画廊探訪 No.074】糸が結ぶ解ける世界で ―――「ULTRA005」Oct.Side出展  宮田彩加作品に寄せて――――

糸が結ぶ解ける世界で
―――「ULTRA005」Oct.Side出展
 宮田彩加作品に寄せて――――
                 襾漫敏彦
一見すると、いくつかの油の絵具を、粗く筆にのせて、一(ひと)刷(は)けしたような絵である。近くに寄って驚いたのは、それは、絵の具ではなく色のついたミシン糸であった。

 空間が、ひきちぎられたようである。裂け目で引き摺(ず)られた色の軌跡を、張ることで直線をなす糸という物質であらわしている。空間のずれ、残像を具現化したようでもあり、もうひとつの自分が住む並行世界と、この世界を結びつける帯のようでもある。
 
 顕微鏡は、焦点をあわせた平面だけが、像を結ぶ。厚みを持つ切片は、焦点をずらすと、見える断面が変わるのである。宮田彩加氏は、装飾の世界で働いていたことがあるようである。レンズを調節しながら、モノの構築を、くり返しくり返し視ていたのであろう。断面が、意識の中で、姿を組みあげていく。色彩と輝きがもつ距離と厚み、そして実体と虚像を、おし黙って見続ける彼女がある。

 この世間を渉(わた)るということは、決断を問われることである。この想いに生きるのか、あきらめるのか、問いに答えた時、それまでのわたしは、二つに別たれる。顧みれば、数えきれない自分の可能性があったのである。過去へと置き去りにされたその姿は、悔恨と覚悟の湖(うみ)に沈んでいる。

 過去の記憶は残像である。選ばれなかった自分の有り様(よう)も、虚空の中に沈んでいく残像である。宮田彩加氏のミシンの糸の張りは、未来を前にして立つ己の未練とでもいうべき残像をつなぐ心の名残の強さのようにも思われてくる。

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宮田さんのウェブサイトです。


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