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サマリー画廊の楽しみ方ーーなんで画廊に足を運ぶのか【アート・エッセイ】66〜70


第66回


 版画の話を続けていますが、今回はリトグラフです。リトグラフは、石板印刷とも言われ、書いたままを印刷できる方法です。18世紀末に開発された技術で、印刷技術として広く展開し、カラーリトグラフは、ミュシャやロートレックなど、アール・ヌーボの名作を生み出しました。
 遠藤竜太さんとは、かなり古い付き合いになります。確か彼が、大学院生くらいの頃、鷹見明彦さんのお宅で、作品を見せてもらったところからです。中上健次の本の装丁に使われたことも覚えています。
 鷹見さんが亡くなった後、久しぶりに会ったのですが、いつしか多くの彼の教え子と知り合いになっていました。

 もう一人は、霧生まどかさんですが、リトグラフならではの繊細な豊かな色彩が、心のひだを表しているようでした。


第67回


 今回は、一回きりの版画を少し取り上げてみなす。樹乃かにさんは、デジタル印刷を使用する作品が主です。これは、制作過程の揺らぎが出にくく、同じものがいくらでも複製できる(?)手法ではあります。
 樹乃さんは、それとは違う剥がし刷りという技法にも挑戦しています。これは端的にいうと、柔かい厚みのある版面に深く線を刻み、そこにインクを流し、輪郭を整えるのですが、そこの間に粘度の高いインクをつけて、剥がすようにして転写します。
 印刷というよりも転写という方が馴染むかもしれません。

一版多色刷りというのは、この感じに近いやり方かもしれません。

版画は、印刷、複製技術の必要とともに、いろいろな方法を開発してきましたが、それを通して、複製できない一回切りの可能性もあらわれることも興味深いです。

第68回

版画の話も終盤ですが、今回はシルクスクリーンです。シルクスクリーンは、ある世代の人には馴染む深いと思いますが、プリントごっこです。あれが、シルクスクリーンの原則そのものです。
 最近は、Tシャツ印刷でも使われているようですが、古臭いやり方のように思われていますが、結構、繊細かつクリアな印刷がされるようです。


廣瀬さんとは、銀座の画廊のグループ展でお会いしましたが、その後も、年賀状など交わしています。


中村花絵さんは、デジタル映像が、画素の集合体であることに因んだ作品を作っていましたが、そこから存在の集合性へとも展開しているようです。


無数の穴から擦り出されるシルクスクリーンの個性も面白いですよね。


第69回


 版画は、ドローイングに並んで、独学の方も多いように思います。
 デッサン、塗りというのは、長い年月の蓄積の上にのっていて、想いを絵として表してある程度以上になるのは、かなり大変でしょう。

 版画というのは、予想外の部分や、作家の工夫が、技術の操作の上で反映するのかもしれません。その発見、驚きが、翻って作家の想像力を刺激するのかもしれません。

 多分野から参加された方に、ユニークな方も少なくないです。

 高橋さんは、哲学畑ですが、コート紙を使った版画の手法で自分の中のイデアを表しています。コート紙は、印刷したりするために紙の表面に加工をしたものです。パンフレットを作っているようなあのテラテラとした紙です。それを鉄筆で表面を削るようにして版を作って印刷します。
 まるで、言葉で書かれた文章の向こうにあるイデアを読み取ろうとするような作業であります。

 北嶋さんは、建設学部出身です。彼は、印刷してものを組み合わせて作品を作ります。近々彼の個展がありますけど、彼の作品は、やはりパーツを組み合わせて何かを達成させるその感性は、これまでの体験の積み重ねがなせる技だと思います。



第70回


 版画を振り返るような話を続けてきました。

 版画は、印刷の技術の展開とともに、技法が、成熟した領域です。複製時代のものですが、モノタイプやコラグラフなど、一点ものへとも展開していきます。
 コミュニケーションが基本にある分野ですが、
版画の作家は、わりと中がいいような気がします。日本の浮世絵、瓦版など木版印刷の長い伝統や、プレス機を共有しながら作業をしているからかもしれませんし、版画協会の雰囲気かもしれません。
 プレス機の置かれている場所での言葉の交わしあいもあるのでしょう。
 以前も触れましたが、グループ展から知り合いがふえることも、多かったようにおもいます。



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