〈失われたところから、もう一歩〉:【アーティストと向き合う】その3
松本俊介は、小さい頃の病で、聴力を失ったとききます。音というのは、変化を伝えてくれるもので、それは、時の流れを教えてもくれます。
風景をながめるとき、音が動きを伝えてくれる。でも、無音の世界では、変わらぬものとして、凝結しているようにみえるかもしれません。
日本画の中村馨章氏は、重度の難聴です。彼は、音の無い世界に育ち、絵を描きました。その頃、彼に渡した評論を添付しておきます。
彼はその後、人工内耳の手術を受けて、器具をつければ音が聞こえるようにはなりました。
八段階の音域でしか、認識できないようですが、彼の話によれば、それでも、迸るように音が流れ込んできたそうです。
機械を外せば音は消える、でも、機械をつけると洪水のような音。
はじめは本当に混乱したようです。
その後、アメリカに留学して、言語哲学を学び、新しい境地を開いたようです。
帰国後、ホワイトストーン ギャラリーで、個展を行いますが、その時の感想が下です。
僕らは、自分の触れる世界が本物だと思いますが、中村馨章さんの絵をみて、さまざまな見え方、世界の手ざわりがあることを痛感しました。