【画廊探訪 No.153】描かれる線は、情感の厚みを伴って輝いて――Gallery Face to Face グループ展『境界』 櫻井あや乃出品作品に寄せて−―
描かれる線は、情感の厚みを伴って輝いて
――グループ展『境界』 櫻井あや乃出品作品に寄せて−―
襾漫敏彦
ぼんやりとして曖昧な暗がりの中に、僕らの意識は、浮いている。そこは、上もなく、下もなく、右もなく、左もない。前もなく、後ろもない。その不安、とりとめの無さが、光なき中で、手がかりを、形を、支えをもとめていく。肌に触れた何か、闇にみえた何かに名前をつけ、形を信じて、ぼくらは倚りかかっていく。地位、身分、性、年齢、・・・。
櫻井あや乃氏は、さまざまな手法(アプローチ)で、線を問う作家である。油彩、水彩、アクリル、オイルパステル、ジェッソ、様々な具材を使っては自分の存在(い)る空間をキャンパスに投影していく。そこは、涯もなく、変化もなく、動きも光もない空間。櫻井は、いつでも自分が存在(あ)る、同じことに線を輝かせていく。
線の中に、古(いにしえ)より我々が受けついだものは何であろうか。粘土板を削り取るようにして楔形文字は残された。動物の骨の構造を割り砕くように甲骨文字はつくられていく。エッチング、木版も、物質空間を改変することで線はつくられていく。
固定されたもの、安定したもの、変わらないものは、傷つけられて、変化の世界、時の流れる時空へと連れ出されていく。そのステップボードを蹴った後の跳躍の軌跡、物の震動、空間を伝わる衝撃の痕跡、それが線に今でも、まとわりついているかもしれない。
それでも、文明社会の中で、線は区切りであり、境界であり、定義であり、理屈であり、壁であり、時として描かされるものになる。
にもかかわらず、画家にとって、白以キャンパスの前で、光を求める暗がりの中で、あらわれるのは、カラダの感覚、原点としての私、その始まりの一点から全ては始まる。
精神は震えて感情となり、流星として夜空を走る。その時、一瞬、満点の星が、軌跡に、まとわる感情の輝きに照らされて浮かびあがる。そうして櫻井の線は、古代の記憶と繋がるのかもしれない。
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櫻井さんの画像のホームページです。
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