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【画廊探訪 No.090】たおやかに結ぶ平凡の風情 ―――フリュウ・ギャラリー『ながらてん』本多絵美子氏出展作品に寄せて―――

たおやかに結ぶ平凡の風情
―――フリュウ・ギャラリー『ながらてん』本多絵美子氏出展作品に寄せて―――
                                襾漫敏彦
 日常の風景は、静かである。暖かい午後に少しまどろんで、ふと何かの気配を感じることがある。それは、本棚の陰で小さなものが、たてた物音かもしれないし、風のいたずらかもしれない。

 本多絵美子氏は、日常性の中に、生命を削り出す木彫り作家である。釘で包みこまれた針ねずみ、赤い紐糸でつるされた蜘蛛、動きを止めて森の植生に戻っていく甲虫。彼女が手かける動物の彫刻の中には、見るものを素材や日常のもつ静けさへと連れもどす要素がある。

 浮き彫りにされた生きものの肌は、刃(やいば)で断ちきられたというより、優しく撫であげたようである。どこか、一人、針仕事をする女性の姿を思い浮かべる。細やかな作業をふと止めて、一息ついた時、見廻した風景の中に、誰かの存在を感じることもあろう。それは、時として、日常性を支える多くの生たちの体温のようなものかもしれない。

 今回の作品の一つに、背が木琴になったアルマジロがあった。見方によっては、装飾された楽器である。しかし、マレットで、音を鳴らした時、アルマジロが全身を震わせる。形を眺めるときは楽器になり、演奏すると、動物に戻る。

 針仕事に戻る時、彼女も日常性の風景になる。その時、隠れていたもの達は、安堵して動きはじめる。平凡の風情とは、そういう捉えがたい程のものかもしれない。

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本多絵美子さんのウェブサイトです。


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