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【画廊探訪 No.067】物の言葉を語り直して ――牧芳彦個展『物語』に寄せて―

物の言葉を語り直して
―――ART GALLERY OPPO 主催 牧芳彦個展『物語』に寄せて―――
襾漫敏彦

 木には、木の表現がある。木の彫刻の中には、背面や中をくり抜いたりしている。素材となった木材は、自然の状態から切り出されて、長い時をかけて内に貯えた水分が抜けていく。当然のことながら、乾き方にも、バラツキが生まれる。それが、ひび割れの原因にもなる。背面や中のくり抜きは、ひび割れを防ぐ効果もあるようだ。木には、木の文脈がある。

 北陸の井波の地は、木彫の地である。木彫の魅力にとらわれた若者たちが、いまもなお、その地をおとずれる。修行の日々を通して、井波の地の木彫の伝統を吸いあげ体にいきわたらせる。そして、ゆったりと木彫の可能性を拡げ解いていく。
 
 牧冬彦氏も、井波で修行した木彫師である。工芸の伝統に根ざしながら、もっと伸びやかな世界も学んできたのだろう。今回の個展『物語』は彼の初めての個展である。植木鉢の上で四股を踏む蛙、帽子から顔をだしたねずみ、種をまいた土を這う蝸牛、彼は有情の生き物を意匠の中心に据え、そして無情の物体を、そこに寄り添うように並べて置く。動物のぬくもり、そして物質の質感に、木の肌合いを重ねていく。自分の想いを、木に歌わせている。
 そして、更には、折り紙など物で拵えた動物をも、木で表現する。そこで表わさんとするものは、物にあらわれた人の行為の名残りである。人の手ゆえのアンバランスが、木のぬくもりで包むことで柔らかに表現されていた。

 木には木の言葉がある。人には人の言語がある。木の言語を人の言語で語り、人の言語を木の言語で語る。そこに牧芳彦氏の「物語」の世界があるのだろう。

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