【画廊探訪 No.115】物質に閉ざされた世界の中の私を記す ―――アートスペース羅針盤企画「試行する作家たち、フォルテ7人展」 磯部隆出品作品に寄せて―――
物質に閉ざされた世界の中の私を記す
―――アートスペース羅針盤企画「試行する作家たち、フォルテ7人展」
磯部隆出品作品に寄せて―――
襾漫敏彦
熱い政治の季節、様々な色の帯が、張られ続けた。世界に理想を求めながら、気がつけば、誰も夢を語らなくなっている。人は、都市を建設する存在であったのにいつしか、そこに寄生するだけのものになっている。神や歴史を語れば語るほど、そこには廃墟のような物質しかないことに、人類は疾うに気づいているのに。
磯部隆は、アクリル絵具にセラミックを混ぜて具材を準備する。質感をもって色に沈む感触は、乾いていくコンクリートのようでもある。彼は、左官が壁を塗るように物の面を組み重ねていく。それは、単調な色彩と立体の組みあわせのように見せながら、一つの風景を形成していく。
彼は、かっての報道写真を思わせるモノトーンの物質的な構成の中に色彩と質量感を加えて画面を組みあげる。ネガとポジ、白黒と色彩の緊張の隙間に、その力線の一部が剥離したかのような色を残す。それは、巨大な物語の暴走の中で、置き去りにされ続けた小さな声のようである。
主知主義と主意主義、この闘争は古代ギリシャに遡るほど古くから続く。私を原点としたとしても周囲がわからなければ動けない。外部世界の理解を座標としても決断が要求される。二律背反の中、どちらを選ぶか、選べないからこそ闘争が続いたのだ。
本当に行くべき道は、両者のやりとりなのである。人が社会を形成する以上、そこにしかない。現代に繰り返されるバベルの災厄を前にして、磯部隆は、物質的な風景の中に小さな私の痕跡を刻み残しているのかもしれない。
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磯部さんはネットで検索すると、画像がたくさん出てきます。