日本シリーズで一番印象深いプレーとは・・・
歴史に残る名勝負と評価の高い今年の日本シリーズは、東京ヤクルトスワローズ(以下:ヤクルト)の4勝2敗で終りました。
毎試合1点か2点差で、逆転に次ぐ逆転という緊張感のある好ゲームが続き、テレビ観戦していてもとにかく疲れました。結果として20年ぶりの日本一は、ヤクルトファン歴約50年の私にとっても最高でした。
相手のオリックス・バッファローズ(以下:オリックス)も本当に強いチームで、特に2試合に投げた今年の沢村賞の23歳、山本由伸投手の圧巻のピッチング!!しかしあの山本投手から2試合で1点ずつ取ったヤクルトの粘り強い打撃陣もたいしたものです。逆にヤクルトも奥川、高橋の若き左右エースが素晴らしかった。特に1戦目のサヨナラ負けで嫌な雰囲気だった2戦目を完封勝利した高橋奎二投手が凄かった。そして中継ぎ、クローザーのヤクルト投手陣。2敗したマクガフ投手を第6戦でロングリリーフで投げさせ、胴上げ投手にさせた高津監督の心意気もグレートです。ヤクルトの方が中継ぎ、クローザーに関してはオリックスよりも少し上だったのが勝因でしょう。
それ以外にも見どころがたくさんあり、野球の面白さを痛感した日本シリーズでしたが、私が(というより多くの方が)最も印象的だったのは第4戦でのヤクルトの2番打者・青木宣親選手のこの場面でしょう。下記YouTube参照。
SNSでは、
・フェアプレー
・スポーツマンシップ
・かっこいい
などこの青木選手の申告ファールに賞賛の言葉が。
敵方のオリックスファンからは「こういう選手がいるからヤクルトは強いのですね」といった、ヤクルトファンとしてはとても嬉しい投稿もありました。
ロースコアーの試合ばかりの今回のシリーズでは、デッドボールの判定のまま1塁に出れば得点に結びつくチャンスがあったにもかかわらず、正直にバットのグリップエンドに当たったのでファールだと審判に伝えた青木選手に両チームのファンだけでなく多くの野球ファンから拍手が寄せられたということです。試合の勝ち負けに影響していないこの場面のYouTubeが今日現在で92万回も視聴されているのがそのことを物語っています。
話は野球から離れますが、私がこの青木選手のプレーに寄せられた賞賛の言葉で想起したのは、フランス文学者・哲学者の森有正(もりありまさ)の言葉です。
私は大学での専攻がフランス文学であったこともあり、20代の頃から60過ぎの現在に至るまで、最も影響を受けた思想家の一人が森有正です。
本当は先生をつけたいほど尊敬しているのですが、お会いしたこと、習ったこともないので敬略称で。
森有正の深遠な思想を短く紹介することは困難ですが(私自身がどこまで理解しているかも怪しいところで)、森有正全集など様々な著作を読んできた中で最も感銘を受けたのは「言葉が先にあるのではなく、実体(行動、行為など)に言葉を名付ける」という考え方です。そして「実体の伴わない言葉は信用しない」と。
今回の青木選手のプレーは、正にその行動が先にあり、それに対して「フェアプレー」「スポーツマンシップ」といった賞賛の言葉が多くの方から投げかけられました。言葉が先行したり、一人歩きすることがなく、言葉が重みを持っています。
これとは逆のケースの事件・事故・不祥事なども同様に、ある行動や行為、そして失言などに対して「ブラック企業」「パワハラ」等の言葉が名付けられます。
スポーツの世界とは異なり、政治やビジネスの世界などでは、言葉が先行することが多いように感じます。ビジネス、特にIT関連では未来につながる「・・・社会」という新語が作られ拡散します。ところがそのまま実現することなく消滅することも多い。そしてまた次の新しいコンセプトの言葉が発明され・・・。言葉先行の例は、選挙の時に顕著な政党の公約や与党の政策など。国民に約束した公約や政策が実際にどこまで実現できたかはほとんど検証されないままに、また明らかに失敗した政策がいつのまにかフェードアウトしていったり。そしてまた同じようなフレーズが飛び交うの繰り返しが現実ではないでしょうか。困ったことです。
少し飛躍しましたが、今回の青木選手のプレーではそこまで考えさせられました。第6戦で高津監督胴上げの後に泣いていた青木選手はじめヤクルト選手たちの嬉し涙にも深く感動しました。
連覇はなかなか難しいことですが、来年の日本シリーズもヤクルトとオリックスの対決が観たい。それくらい素晴らしいシリーズでした。野球の面白さを改めて感じさせてくれた両チームの選手たちに感謝。
写真は京都・平安神宮近く 撮影2014年秋