#13 額田王を口説くなら
先週、額田王(ぬかたのおおきみ)のこと話したよな。
■ 君待つと吾(あ)が恋ひ居(を)れば我が屋戸のすだれ動かし秋の風吹く
当時の恋愛は、女性が男性を待つって形。
で、オレはこういう待つ女より、清少納言のようなツンデレで頭のいい女がいいってこと言った。
でも、この額田王だって、なかなかの女だったんだ。
まず、「君待つと」の歌。
この「君」は、彼女の旦那。
天智天皇だ。
この天智天皇だけじゃなく貴族が集まっている宴で、こういう歌は披露される。
つまり、みんなの前でラブソングを歌うって感じなんだ。
でも、額田王のオリジナルかっていうと、実は、もと歌がある。
中国大陸から来た漢詩だ。
清風動帳簾・・・清風が、帳(とばり)や御簾(みす)を動かして
晨月照幽房 ・・・明け方近くの月がこの部屋の奥まで照らしている。
・・・大好きなあなたは、遠いところにいて、
・・・蘭の香りで待っているこの部屋に、あなたという光を見ることはないのです。
・・・
こんな漢詩がすでに伝わってきていて、それを下敷きに、五七五七七にした。
そうやってみると、「君待つと」はけっこう、頭のいい、センスのいい歌だと思えるな。
漢詩の方が、情景を歌ってもたもた始めているのに対して、額田王は、
■ 君待つと(あなたを待っている)
とスパッと歌い始めるんだ。
センスあるなーって感じるよ。
ちょっと前だけど、額田王は、旦那の天智天皇と、その弟、大海人皇子(おおあまのみこ:のちの天武天皇)の三角関係でもあった話ししたよな。
演技としての言葉
https://note.com/20212015/n/n7f22c44ba6b6
■ あかねさす紫野(むらさきの)行き標野(しめの)行き野守(のもり)は見ずや君が袖振る 額田王(ぬかたのおおきみ)
(ムラサキを採る野を行き、ご料地を行きながら、あなたが私に袖を振って見せては、番人(野守)が見ないか、はらはらしますよ)
これに対して、大海人皇子は歌を返す。
■ 紫のにほへる妹(いも)を憎くあらば人妻ゆゑに我恋ひめやも 大海人皇子
(紫草のように美しいあなたを、もし嫌いなのだったら、人妻なのに、こんなに好きになったりしないよ)
こういうのが大っぴらに歌われるのが万葉集の世界。
で、この額田王の歌で、もう一つ有名なの。
■ 熟田津(にきたつ)に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎいでな
(熟田津で船に乗ろうと月が出るのを待っていると、潮の流れよくなってきた。さぁ、今こそ漕ぎ出そう。)
これ、663年の朝鮮半島での「白村江(はくそんこう・はくすきのえ)の戦い」に出発する時の歌だ。
侵略戦争?
そんなわけない。
そこにあった百済(くだら)って国がSOS出したから、助けに行ったんだ。
でさ、これを額田王が歌ったわけさ。
天智天皇の思いを受けて。
もう、女性指揮官だよ(笑)
戦ったのは兵士だろうけど、戦を辞さない姿勢を女性が示していたっていうのはおもしろね。
まあ、オレはゾクゾクするけど(笑)
いいねー、すげー女だ。
で、この白村江の戦いに結局負けちゃう。
大陸の強さを思い知り、天智天皇は国防の必要性を知るんだ。
天智天皇は、白村江の戦いの前後に、「越前」「越中」「越後」とか、行政区画を作る。
都を守るため、より内陸の近江、今の滋賀県に移した。
守りに入ったわけだ。
そんなときに、額田王はこんなふうに歌う。
■ 味酒(うまさけ)三輪の山 あをによし 奈良の山の 山の際(ま)に い隠るまで
・・・心なく 雲の 隠そうべしや
神様にお酒をお供えした、そんな私たちの神様のいらっしゃる三輪山を離れて新しい都に移ろうとしている私たちに、・・・どうか雲よ、もう少し三輪山を見せて、隠さないで、って感じの歌さ。
なんか、これからの国を思う切実な思いが感じられるよ。
こんなふうに、女性も国を思う気持ちがあるんだなって。
今、こんな発想をする女いるかな?
恋もし、戦いもし、国の行く末も案じる。
古代は、こういう女性もいた。
今?
今は全滅じゃないか?
つまり、女だけでなく男も駄目。
というのは言い過ぎかな。
ともあれさ。
額田王っていう女も、実に、オレにとっては魅力的な女ってことさ。
ゾクゾクするねえ(笑)
そうだなあ。
額田王にあたるアーティストは椎名林檎かな(笑)
東京事変の「緑酒」なんてね。
■ 自由よいいように搾取されないで
安く売らないで終始貴様は
誇り高くあって頼むよ自由
フェイクじゃない元来の意味を見せて
騙るまじ腐るまじ追い続けていたい貴様をずっと
椎名林檎の歌詞も、またどこかで話そうか。
さて、額田王をバーカウンターで口説くとしたら、どんな酒選ぶ?
これはなかなかの難題だ。大体、酒飲まなそうだしな(笑)
んー、展開次第だけど、あんまり頑張りすぎるとかえって見透かされる感じもあるから(笑)、まずはスパークリングワインでさわやかに可愛く始めてみるかなあ(笑)