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9/1@さよならポエジー

もう行き慣れているはずなのに未だにGoogleマップに頼ってSpotify O-EASTまで急ぐ。
186番という早い整番の癖に開場から既に30分は経っている。

不安定な天気で台風10号のサンサンは消滅したというのに、渋谷駅は小さな雨粒がぱらぱらと頭に降ってきた。バンドのタオルを頭に巻くのは1人だと恥ずかしさが勝ってしまい、手で前髪を覆う気休めのような格好をして急いだ。

信号を渡っている途中で家から持ってきた麦茶のペットボトルを落とした。か細い情けない声で「すみません」と言って拾うけど素通りする人々の対応は冷たいというよりも平常運転だ。

外国人観光客の多さで渋谷は日本の中心地という意識が高まる。そんな都会で走る勇気も無いので精一杯の早歩きでライブハウスに着いた。

ため息をつき、体力の無さを実感しながら階段をのぼりずっと握りしめていたドリンク代600円をコイントレイに乗せる。ドリンクチケットはペラペラの紙で手汗で湿ってしまいそうだった。

ライブハウスの重い扉を押すとスモークが広がった。いつも何となく上手の方へいってしまう癖に従い、もう既にさよならポエジーを待ち望んでいる人たちの間を塗って端っこへ進んだ。
落ち着いた年齢層で1人でライブを見に来ていることの居心地の悪さもない。

就活の面接練習で頭がいっぱいで開演までノートに面接で聞かれることリストの内容をずっと書いていた。暗いライブハウスの端っこに灯る小さい明かりでペンを走らせる。

30分程経っていきなり拍手が起こる。さよならポエジーの3人が出てきた。それぞれ楽器をセットし音出しを始める。その緩さが逆に緊張を誘発した。握りしめた拳がメキメキと痛い。

オサキアユが中盤に差しかかかったことを知らせるMCをしたとき驚いてしまった。あんなに重さのある曲をもう半分体感してしまったのかという気持ちが押し寄せる。

大きな音と繊細で刺すような歌詞は耳ではなく私の心を突き破る。その塊はジワジワと体の中で熱を持って留まっていく。高くあげた拳が照明を遮った。ひとつの音楽に大勢のひとが夢中になる光景がなんだか異様に思えた。このライブを見るまでに皆新譜を聴いて思いを馳せていたのかと思うだけで、音楽のつながりを愛おしく思えた。

台風のせいにしてしまえばそれまでだけれど、朝からパッとしない体調で意地で会場まで来たと言っても過言ではない。高田馬場が外れて、運良く行けた八王子は対バンで、待ちに待ったワンマンが9/1渋谷だった。
どうしてもO-EASTの大きなステージに立つ3人が見たかった。この意地は誰にも負けない。

「拘束のすべて」が鳴る。渋谷のタワーレコードで軽い財布の中身を心配しながら買った1枚"前線に告ぐ"を初めて聴いた時のことを思い出した。
慣れない手つきでCDを携帯に取り込んで電車の中でよく聴いた。駆けるように鳴るギターが眩しかった。目が離せなかった。静かに呼吸をしてその曲と対峙をした。
どうしてもサビが苦しかった。ライブは終盤に差し掛かってまさに"それなりの疲弊と情のロマンス"の中だった。拳をあげるのも忘れて聴き入った。あの時間に溶けてなくなりたかった。そう思わせるくらい、音が粘度のある液体のように私へドロドロと降り掛かってきたように思える。  

ずっと待ち望んでいた「半分になった俺たちへ」のイントロが流れてきた時の胸の弾みは何にも例えられない。新譜の中で1番救われたというより私の1部になった曲だった。手を振った先にいる人物は私のことをどう思っているのか。こんなしょうもない大人とも呼べないような人間になりやがって、と怒っているかもしれない。それでも記憶に縋り付く情けなさと手を繋いで生きていく。私はまだ手を振りきれなかった。

張った足を奮い立たせながガクガクと慎重に階段を降りる。
外に出ると湿気が私のくせ毛を余計に酷くさせた。びしょ濡れの地面をみて、あの時間にとても雨が降ったことを知った。傘を持っていなかったことなんて忘れていた。
滑らないように1歩ずつ確実に踏みしめながら歩く。夜の渋谷はライブ後には似つかないほど賑わっていて同い年くらいの男女グループや怪しそうなおじさんの横を避けながら駅へと向かった。

頭がぼーっとして耳鳴りがする。それが毎回愛おしい。ライブを浴びた感覚が体を重くする。今日私はまた良いものを見た。そんな簡単な感想でまとめてしまったらもったいない気がするけれど確かにそこに音があって、大好きな曲が鳴っている実感を胸に秘めてまたこれからもさよならポエジーを聴こうと思う。

ライブに行った日は疲れているのにも関わらず寝るのが遅くなってしまう。レポを書き終えたらライブも完全に終わってしまう気がしてなかなかフリック入力が進まなかった。

確かにそこにあった感覚。

9/1 SUNG LEGACY という新譜を持ってさよならポエジーがSpotify O-EASTで鳴らした日。

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