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引かれた手

あることで頭を悩ませて腹いたになっている君を心配して走る。

携帯越しに聞こえる声は予想より元気そうで、「なんだ元気じゃん」と零すと「いま声聞いてるから元気になった」なんて調子のいいことを言われた。

眩しくてギラギラした日差しが段々と和らぎ、薄い色をしていた月がハッキリしてきた。

助手席に乗りながら歌を歌ってみたり、ラジオを聞き入ったり、寝たふりをしたりした。しっかりハンドルを握り「曲がります」と案内をしてくれる君。

車内に取り残されて何気なしに携帯を見ていた時、いきなりドアが開いた。

「早く来て」と子供のようにはしゃいで私を急かした。脱いでいた靴を急いで履いていると「いいから早く」と、大きい手が私の腕を掴んだ。

その勢いに負けながら引かれた手の先をみるとキラキラとした君がいた。

9月も半ばに差し掛かろうとしているのに、花火があがっていた。

その大きな音に釣られて周りの家のドアが開く。

お祭りであげるには小さくて、誰かが遊びであげるには大きい何とも言えない微妙な花火が暗くなった夜空に弾けた。

夏祭りで一緒に花火を見る約束をしていた1ヶ月前。間に合わなかったことを悔しそうに吐露していた。

思いがけない花火がまだ夏の終わりを延ばしているかのように打ち上がる。

きっと私も君と同じようにキラキラとした幼いあの頃のような真っ直ぐな瞳で、その色とりどりの光を眺めていただろう。

戻った車内でまだ私が花火の姿を追いかける。
「花火一緒に見れてよかったね」と言うと、君は「うん」と照れくさそうに笑った。

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