矢岳神社の白い春。
先週の日曜、天気は晴天。
かってから気になっていた、天草の山々の神社について調べたくなり、
カメラ片手に海岸線をドライブした。
上天草市の南部の東海岸のエリア。
山々は長いなだらかな尾根で繋がり、姫戸町には白岳、龍ヶ岳町には龍ヶ岳、倉岳町には倉岳があり、山頂からは青い海に浮かぶ、島々を眺める事が出来る。
気温が上がり空は白くかすんで見える。
そして神社も順番。白岳には矢岳神社、龍ヶ岳には壽ケ嶽神社(弁財天)、倉岳には倉岳神社があり、神様が祀られてある。豊漁と海の安全を「神様仏様」は祈ってくれているのだ。
僕の勝手な思い込みでは、各山頂をつなぐ稜線は修験道の人々が歩き、仏様の教えを広め、最後は一番南の端の旧栖本町にたどり着き、河を下ると海。いつしか山伏さんの格好は「天狗」となり…天狗のお面が海を渡って来た河童伝説に変化したのではないか?というもの。栖本町には妖怪「油すまし」の伝説もある。
あんまり、天気が良すぎて頭がぼんやりしてつまらない。
白岳山頂近くの湿地帯を回遊する遊歩道を辿るが何も出会えない。湿地の向こうからは、カエルの鳴く声がひっきりなしに聞こえてくるが、近くまで来ると、ぴたりと止む。そんなカエル君を狙い、去年は黒い蛇があぜ道に何匹も居た。いつもなら草を踏む度に黒蛇君達がにょろにょろ出てくるのだが今年は何故か蛇君が居なかった。
相変わらず、矢岳神社は人気でいつも数台車が停車してある。神社の奥には巨石が重なり、パワースポットで有名なのだ。僕はその「パワースポット」という言葉に違和感を覚える。「パワースポット」イコール「観光スポット」というイメージがあるのだ。全否定する気はないが、祀られてある神様も苦笑いしているのだろう。古代から巨石や、深い森の木々には神様が宿ると言われ、人々の信仰の対象になってきた。そこに大陸から仏様がやってきて、地元の神様と合体。神仏混淆(習合)、みんなの幸せを願ってきた。ここの神社にお参りすると「宝くじあたりますよ」てな、人の信仰を商売に利用するポンと出の金儲け神社は神社ではない。「お国の為、死んで会いましょう」てな「特攻隊洗脳神社」も、民の心に付け込んだ政治利用神社で神社ではない。(たかだか明治2年の創建など、生まれたての赤子同様)あんまり駄々こねるから、神風が吹くどころか原爆落とされたではないか。
で、そんな矢岳神社に僕も又、のこのこやって来たのだ。古い社殿の横に小さな祠があり、石仏が祀られてある。たくさんのお供えものが嬉しい。石仏の前には、今回初めて読んだが「おとら」と言う文字が刻んであった。「おとら」さんは、人の名前だろう。石仏の裏に回れば、建立の日付けも読めるのかもしれないが、それは失礼。手を合わせるだけにする。おとらさんは一人、石仏様になり、森の中でみんなの安寧を祈ってくれている。社殿の木の戸を開け、気持ちだけお賽銭あげ鐘を鳴らし、手を合わせる。(いつになく殊勝な我である。)
裏に回ると、なんとも美しい白い椿が満開だった。足元の岩には椿の花弁が折り重なる。この椿は花弁を開かずに落ちるのか。他の場所に咲く赤い椿にはミツバチの羽音がぶんぶんうなり、蜜を採られているのだけど、この椿にはミツバチの姿が見えない。もしくは、この硬いつぼみを開ける事の出来るミツバチだけが、花弁の中の蜜を吸うのか。
矢岳神社の近くには、これまたドルメンだの、シュメール文字の跡だのいろいろ、妖しいパワースポットを紹介する案内版が掲示してあるが、その案内板には文責の表記がない。通常なら、教育委員会だの郷土史家などの名前が記載されてあるのに、都市伝説風の文字が記されてある…はて、ネットでどこかで見たような?はて。
読むに、矢岳神社の祭神は山の神…スサノオノミコト、猿田彦、神馬ともいうと記され、創建は安政5年、「姫戸の姫浦にある祠」を還座したと言われる。還座とは修復し、移転したという意味らしい。姫戸には天皇の乗る船が嵐で難破しようとした時にお姫様が海神に、「自分の命と引き換えに天皇の命を守ってくだされ」と身を投げた伝説がある…他の場所にはそのお姫様を祀る「姫石神社」が現存する。姫浦の祠…海の神が何故、山の神に?
シュメール伝説の前に矢岳神社の存在自体が謎なのだ…全盛期は境内で奉納相撲があったとも記され、たくさんの氏子が石の階段を、息をきらして登って来たに違いない。その石段の造りから相当の人出があったのだろう。それ程、信仰の厚い神社の由来、祀神が分からないのは何故だろう。かってから気になっていたのは、龍ヶ岳の神社のことだった(名前がどうしても思い出せない) が見るに石の鳥居には「壽嶽神社」参道を進むと「弁財天」とある。天草に「弁財天」様も何やら不思議な感じなのだけど。
今回、良かったのは矢岳神社の「おとら」さん…いゃ「おとら」様に、出会えた事。めったに見ることのない白い…桃色の美しい椿に出会えた事。「おとら」様は、悲しいことも、嬉しいことも、みぃんな知っているのだろうけど。また、会いにきますからね。
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