東中島のユキ子 ~フシギ以上心霊未満の話~ 【その2「川」】
はじめての方はこちらをご覧下さい。
川から石とか拾ってきたらいけんよ。母・ユキ子はよく私に言いきかせてくれたものです。
東中島にある私たちの家は、島の最端に位置していましたので川に挟まれるようにして建っていました。家の敷地のすぐ背後に川が流れている格好です。川に降りる為の古い石階段が用意されてあり、川べりに降りることができました。対岸には西中島の格子が入った大きな家が見えました。蟹の巣穴に指や棒をつっこみながら、ぼんやり向こうを眺めていたのをよく覚えています。
岡山を流れる旭川は、瀬戸内海に抜け出ていきます。中島から海はさほど遠くはなく、潮の満ち引きにあわせて川の水位も上下します。潮が引くと、対岸の西中島まで歩いていけそうなほどでしたが、満ちる時は石階段まで水があがってきました。
この東中島と西中島の間を流れる川には、多くのものが流れていきました。ユキ子が子どもの頃には、女の水死体が流れ着いたということでした。子どもが溺れ死んだこともあったそうです。泳いで西中島側に行けると思ったのでしょう。川の中ほどが深くなっていることがわからず足をとられて溺れたのだと。生きた人間や死んだ人間も流れて来ましたが、私たちの家の敷地にいらっしゃった”摩利支天様”も、そうやって流れ着いてきたんじゃないか、ということでした。あの世ともこの世ともしれぬものらが流れるのだから、だから川から石とか拾ってきてはいけんのよ、とユキ子は言うのでした。
ユキ子の話は続きます。
次回予告:拝み屋の話。「祖父・セイ吉が川から拾ってきたもの」
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