どこがすごい?アアルト大学ロゴを徹底解剖!
アアルト大学のロゴが好きです。
大学らしからぬ?シンプルさと大胆さは一度見たら忘れられないインパクトがあります。そんなアアルト大学のロゴに最大限のリスペクトを払いながら、個人的な見解から誕生秘話まで調べたことをまとめてみました。そもそも、アアルト大学ってどんな大学?と思われる方は以下の記事に客観的な情報をもとにまとめていますので併せてご覧ください。
1. どこがすごい?
あまりにもシンプルすぎて、こんなの誰でもできるのでは?と思われるかもしれません。確かに、もはやペンを使わなくてもタイピングするだけでできてしまうので、デザイナーじゃなくても作れてしまいます(失礼)。ただ、それがすごい。以前、日経スペシャル「カンブリア宮殿」で、私が好きな佐藤可士和がロゴ制作について以下のような話をしていたのを思い出しました。
コロンブスの卵のような話ですが、答えを知らない状態で進めていき、最適解に辿り着くそのプロセスは想像以上に難航します。最後は一見単純なカタチに見えますが、複雑な統合作業を経た上で成り立っているからこそ、見る側の人の経験値や知識と一瞬でリンクをして、一発で覚えてもらえる、自分でもできる、と感じるのだと思います。
私も今まで色々な会社やサービスのロゴを作ってきましたが、今回のケースは非常に難易度が高いです。なぜなら「大学」という公的機関かつ3つの伝統的な大学が統合という歴史的な背景を持ちながら、様々なステークホルダーの意向を調整していかなければならないためです。3つの大学が持つ特徴を表層的に足し算しても、出来上がるロゴは複雑かつ説明的になるだけなので、もっと深いところや遠いビジョンから最大公約数を見出していくアプローチが必要になります。これは、極限まで削ぎ落とす作業が必要な至難の業です。またシンプルな形になればなるほど、そこに込めた意義や意味も多くの人の納得が得られる「らしさ」がないといけません。これこそデザインに精通している人だからこそできることだなぁと。少なくとも今の私にはできません…。
2. 賛否両論あった制作秘話
成り立ちに興味が湧いたので調べてみたところ、ブランドが生まれた物語が書かれたアアルトのサイトがありました。
デザインをしたのはヘルシンキ芸術大学(アアルトの前身大学の一つ)でグラフィックデザインを学んだラスムス・スナブ氏。ただ、ロゴは公募での採択で、最初に選ばれたたのは現在使われているものではなく、大学名の中に引用符(“)感嘆符(!)、疑問符(?)が入った以下のロゴだったようです。どこかイタリアなどにあるような雰囲気があります。
この採択が賛否両論と混乱を生むことになります。「?」のシンボルが学問にふさわしくなく、不確実さを強調しすぎて信頼性を欠くと感じられたことや、シンプルすぎるデザインが大学の特色を十分に表現できていないと指摘が多く寄せられたとのこと。また、3つ大学の統合によって生まれたアアルト大学に、旧来の大学の伝統やアイデンティティが十分に反映されていないと感じる人も多かったようです。
上記の話にあるように、盗作の疑いがあったため、提案書を再提出する決定が下され、スナブ氏がデザインをし直すことに。東京オリンピック2020開催時にも大会ロゴで同じような盗作の疑いの件がありましたが、アアルト大学のロゴにおいてはそれとは違い、採択者にやり直しを命じる措置だったのが興味深いです。最終的には、大学名の頭文字の「A」が置かれ、その後に 3 つの句読点のうち 1 つが続く、新しい簡略化されたバージョンをスナブ氏が提案しました(当初よりも、もっとシンプルになったので、その時の反応が気になりますが…)。そのロゴの形態が現在でも使用されています。ただ、そこで確定したわけではなく、色付きのロゴ バージョンの使用を中止するなど、長年にわたって微妙に変更されて今に至ったようです。スナブ氏はロゴをデザインするにあたっての思いを以下のように綴っています。
デザインした本人もすごいですが、色々な批判を浴びながら決定を下した大学側もすごいです。調べてみると現在の学長であるイルッカ・ニエメラ氏が当時、学務担当副学長を務めており、大学の統合におけるブランド戦略とロゴデザインの決定に重要な役割を果たしたとのこと。イルッカ氏は以下のような言葉を残しています。
3. ブランドガイドライン
現在のアアルト大学のブランドガイドラインは以下に公開されています。
ここにはロゴの使用規程だけでなく、アアルトを学外に紹介するときの公式写真や映像、フォントなども格納されています。ロゴが持つ高い自由度と包容度に対し、そのブランド価値を高める、または保つためのシステムがしっかりしているという緩急が素晴らしいと思いました。授業の中で、チームの活動を動画にレポートとしてまとめて提出する課題があったのですが、その際にここに格納されている画像や動画を使えて重宝しました。また、メインのフォントである「Inter」は初耳でしたが、調べてみるとMozillaやGitHubをはじめ多くの企業がUIの改善の一環で視認性とデザイン性が優れているとしてInterフォントを採用しているようです(多くのOSに標準搭載されている「Arial」も代替フォントとして採用されています)。私も授業課題などの提出書類でフォントに迷ったらInterを使用するようにしています。
また、カラーに関してはスクールごとに色が決まっています。「アアルト大学」という大学全体の場合は3つの色が使われます(それぞれAalto University Red, Yellow, Blueと呼ばれているらしい)。6つのスクールは以下のような配色になっていて、私が所属している「School of Arts, Design and Architecture」はAalto University Yellowよりも少し濃い目の黄色です。
ただ、実際のクラスや資料などで明確に使い分けられているかといえばそうではなく、各種イベントや教授、担当教員のスライドではあまり意識せず、わりと自由に作っているイメージです。時々、指定されているカラーを使っているスライドを見ますが、その時は「ARTSの人たちに向けて作った資料なんだよ!」と言う暗黙のメッセージを感じます。就活イベントなどはスクールごとの求人内容がもちろん違うので、同じフォーマットでも配布リーフレットが色ごとに分かれているのはとてもわかりやすいと思いました。
また、上記の学長の話にもあったように、ロゴは1つに決まっているわけではありません。感嘆符、引用符、疑問符の3種類があり、以下のように大学で場面や文脈に応じて使い分けられています(私は今まで適当に使っていたので今後から気をつけます)。このような誰にでもある経験値や知識から大学らしい文脈に統合させるアプローチは改めて美しいと思いました。
ロゴデータについてはこちら(ロゴジェネレーター)からダウンロード可能です。配置する言語やスクール、データサイズに合わせてロゴが生成される仕組みになっているので便利です。私も課題用の資料などを作成する際によく使用します。
キャンパス内を歩いていると、このロゴを各学生がアレンジしたマークをよく見かけます。「A」に引用符・感嘆符・疑問符をつければ良いだけなので、手書きもできるし立体にもしやすい。その上、アアルトの精神性も宿らせることができる。その光景を見るたびに、多くの学生に受け入れられ、それぞれの内面で再形成され、自分らしいアウトプットができているんだなぁという、自由度と完成度の高さを感じます。
どのような社会や時代になっても耐久性のある優れたロゴというのは、レギュレーションでガチガチに固めて厳格に守られているものではなく、そのロゴを自身の存在意義と重ね合わせることで新しい価値を生み出せる余白があるロゴなのだと思いました。アアルトロゴの場合は、その価値を創り出すプロセスこそが大学での学びであり、大学設立当初に思い描いていたビジョンだったのではないでしょうか。
最初にロゴを見た時からすごいと思っていましたが、誕生秘話を調べたことで、その凄味がより増したように感じています。大学のあり方が問われている今、「学びとは何か?」という問いに対する答えのエッセンスが、アアルトのロゴに込められていると感じました。
最後まで読んでいただきありがとうございました!