アアルト デザインスクールって何が学べるの?
一般的に日本で海外のデザインが学べる大学または大学院一括りに「デザインスクール」と呼ぶことが多いですが、中身は千差万別です。今回はアアルト大学のデザインスクール(School of Arts, Design and Architecture)にはどんな学部があり、どんなプログラムを提供しているかについて、少しずつドリルダウンしながら見ていきたいと思います(2024年時点)。
アアルト大学の概要については、数値を切り口に以下の記事で紹介していますので併せてご覧ください。
1.本拠地「Väre(ヴァレ)」
全ての学部はオタニエミという半島一帯に点在していて、学部ごとに建物が分かれています。デザイン学部が所属する建物は「Väre(ヴァレ)」という名前で駅直結の便利な場所にあります。2018年に「Aalto University」駅という地下鉄の駅ができたと同時にオープンしたそうで、フィンランドの国民的お菓子である(でも世界一まずいと言われている)「サルミアッキ」をモチーフ?にしたようです。
こういう発想は日本にあるかわからないですが、建物としての使いやすさや効率、コストなどから積み上げたのではなく、哲学や思想からトップダウンで降りてきた世界観を非常に感じます。確かに不便でわかりにくい部分もあります(私も最初迷いました)が、アート&デザインの考え方が構想や統合、新しいアプローチなどの考え方が大事であることを考えるとその思想が体現されているように思えます。
またビジネスの学部も同じタイミングでこのキャンパスに移管されたので同じ建物に所属しています。ビルの案内地図を見てもわかるように、アート&デザインとビジネスの領域で色分けがされています。
こんなサルミアッキ感のある地図は世界でもここだけではないかと思います。A〜Hの付け方にも普通ではなく、あえてジグザグになるようにつけているとのこと。利用者にとってはここもわかりづらいですが、ここも色々な考えや価値観を交差せる意図があるようです。色々な部分が斜めになっているので、教室の形も様々。利便性より世界観を重視する価値観をとても感じます。
2.デザインスクールの構成
次にこの建物に所属している学部やプログラムについて触れていきます。デザインスクールは合計4つの学部と21の修士プログラムで構成されています。公式サイトでも意外に一覧化されているページがなかったので、全てにリンクをつけて全体のリストを作成しました。興味のある方は各プログラムの詳細ページを覧ください。
こう見ると「アート&デザイン」と言ってもとても幅広い領域をカバーしてるのがわかります。学部までならなんとなく理解できそうですが、修士プログラムまで行くと、もはや何が学べるか分からないのも少なくありません。。このように一覧化してみると、特に映画、テレビ関係の修士が想像以上に多かったのに驚きました。調べてみたところ、アアルト大学はフィンランドで唯一大学レベルの映画教育機関で60年もの歴史を持つとのこと。伝統的なプログラムのようです。
ちなみに今年(2024年)の9月にオープンした新しいキャンパス「MRSIO(マルシオ)※」にはステージや映画やライブ映像が見れるシアター、360度映像が見れる部屋など最先端の設備が導入されています。このキャンパスが建設されてからアアルト大学のグッズが購入できるアアルトショップがこの建物に移管されました(今まではVäreにありました)。MRSIOについての紹介映像もありますので、ぜひご覧ください。アアルト デザインスクールの最先端を垣間見ることができます。
※MRSIO(マルシオ)とはアアルトの最初の妻「アイノ・アアルト」の結婚前の苗字だそうです。
3.デザイン学部の構成
次に私が所属するデザイン学部(Department of Design)について紹介します。前項で触れたようにデザイン学部は5つのプログラムで構成されています。
()内は略称で教授陣や学生も皆フルネームのプログラムで呼ぶことはなく、この略称で呼び合っています。入学した最初の週にデザイン学部全員がとる授業(INTRO)があり、その際に各プログラムについて簡単に触れていたスライドがありました。そのまま使えないので、一部要素を抽出してわかりやすく書き起こして紹介します。
大きく2つに分かれています。左側3つはデザインの専攻の人のみが所属していますが、右側2つは他の学部とのジョイントプログラムなので、デザイン専攻以外の学生も所属しています。ここがアアルトっぽい面白い部分です。中身については後述しますが、この5つのプログラムのポジションが少しでもわかりやすく伝わるように、「理論ー実践(縦軸)」「問題解決ー問題提起(横軸)」の2軸でプロットしてみました(完全に私の主観なので悪しからず)。ざっくりいうと、理論に近いほど学術的・抽象的で応用範囲が広くなり、実践に近いほどカタチになる。問題解決に近いほどビジネス色が強くなり、問題提起に近いほどアートの領域になるというイメージです。
アアルトは理論が多くて実践が少ない、という話をよく聞きます。確かにプログラム単位ではそうかもしれません(実践の場が他にあるため、というのも一理あり)。私の場合は長く働いてから修士に進学したので、実践・経験してきたことを抽象化・構造化するのに理論ベースの授業はとても自分に合っていると思っています。ただ、学部からストレートで進学してきた人にとっては内容が綺麗すぎる、またはよく分からないことも多いのではないでしょうか。いずれにしても、同じデザイン学部でもプログラムによって様々なので、プログラムが提供しているコースや授業まで見ていくとより理解が深まると思います(実際に進学している人に連絡を取るのがベストです)。図を見てわかるように、CoID / CS / IDBMは被っている領域が多く、学生によっては選択科目で受講する授業が同じになることがあります。
4.各プログラムの印象
最後に、私から見た各プログラムの印象を書きたいと思います。客観的な情報は公式サイトで確認することができますので、合わせてご覧ください。
(日本語訳が正しくないかもしれません)
Collaborative and Industrial Design (CoID) ー 協働・工業デザイン
私が所属するプログラムです。「Collaborative」をどう訳すかが難しい(協働・共同・共創?)ですが、少なくとも一度伝えただけでは何をやっているか分からないプログラムなのは間違いないです。このプログラムはさらに3つのオプションに分かれます。
Option 1: Service design / Social Design 👈私はココ
Option 2: Product design and development
Option 3: Interaction design
自分のホームなのでCoIDについては別の記事で詳しく書きたいと思います。
Contemporary Design (CoDe) ー 現代デザイン
いわゆる「アート」を中心に学べるプログラム。修士の卒展を見に行きましたが、個性豊かでなかなか「芸術的」な作品が多かったです。プロットした図にもあるように、何か特定の問題を解決するというよりは世の中への問題提起としてカタチにすることでメッセージを伝える、という部分に重点を置いているイメージです。そのカタチにする手段として工芸や3Dプリンタ、メディアなどを学んでいるようです。
Fashion, Clothing and Textile Design (FaCT) ー ファッション・テキスタイルデザイン
その名の通り「ファッション」全般をより深く学ぶプログラム。同じ建物なのでFaCTの学生が作っているものを外から見れるのですが、ひたすら服を作っています。ただ、PCルームでの授業もよく見るので、実践的であるだけでなくデジタルでの作業も多いイメージです。学部全体の必修授業で一緒になった際に、ディスカッションや発言をしながらひたすら何かを編んでいるFaCTの学生を数名見ました。
Creative Sustainability (CS) ー クリエイティブ サステナビリティ
デザイン、ビジネス、テクノロジー(化学)のジョイントプログラムです。テック学生は素材の材料を扱う化学系の学生が参加しています。CS(デザイン)の学生はどちらかというとアートに近い思考を持っており、サステナビリティを共通項にビジネス、テックの人たちと連携するのはなかなか難しいだろうなぁという印象を持っています。また、アアルトの名物授業「Design for Government」はCSが最優先で受講できるコースです。私も受講したいと考えているのですが、人気授業でもあるため登録にあたりCVやモチベーションレターを提出する必要があるらしいので、受講が叶うかわかりません。。授業の最終プレゼン動画が上がっていましたので、興味のある方はご覧ください。
International Design Business Management (IDBM) ー 国際デザイン経営
個人的にデザイン学部の中で一番実践的なプログラムだと思っています。デザイン・ビジネス・テクノロジーの3つの領域から学生が来るジョイントプログラムで、企業、ビジネス色がかなり強いです。5つのプログラムの中で唯一単独のWebページがあり、まとまっているイメージもあります。IDBMといえば6ヶ月間にわたりフィンランド以外の国などに出かけて社会課題をテーマにチームで取り組む必修科目「Industry Project」が有名です。デザイン・ビジネス・テックの混合チームで企業とタッグを組み、発展途上国などにリサーチに行って提案を作り上げる授業だそうです。また、プログラム以外でも学生主体のサブジェクトクラブの1つである「IDBM KULBI」や北欧のデジタルに強いコンサル会社である「Columbia Road」と連携して企業が抱える課題を解決する取組みもIDBMが関わっています。このことから、マップでは問題解決・実践部分に広くプロットしてみました。
今回は、アアルト デザインスクール(School of Arts, Design and Architecture)の概要とその中でもデザイン学部(Department of Design)に焦点を当ててまとめてみました。「デザイン」と一言でいっても扱っている分野は広く、かつ学生の興味のある領域も多岐にわたります。質の高い授業と設備が整っており、学部間でも選択科目で受講することができるので、何か極めたいことがある人にとってはとてもいい環境だと思います。一方で、「自分次第」という放任主義な印象もありますので、自分で考えて行動して受講する、という姿勢がないとキツイかもしれません。
最後まで読んでいただきありがとうございました!