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【NPO設立!】フィンランドで世界の社会問題に取り組む
突然ですが、世界で助けを必要とする人々の問題を解決するNPO法人「Aalto University Campus Club」を立ち上げました!この組織は、世界約200の国に展開し、約140万人の会員を持つ世界最大級のボランティアグループ「Lions Clubs International」のサポートを受けています。今回は、このNPOの設立の背景や目指していること について書いていきたいと思います。
1. 組織設立の背景
「こういうのが社会問題のリアルだよね」。
友人が大学内で開催されるあるワークショップを紹介してくれたときの言葉でした。それは、ケニア(カカメガ地区)で展開されている国際支援プロジェクト「Bringing a Million Solar Cookers to Africa」という取り組みでした。ソーラークッカーとは電気を使わず、太陽の光だけで熱を発生させて料理ができる機器のこと。最初に聞いたときは、「ソーラーパネルや蓄電池などの機器は使わないの?」と思いましたが、コストや地域の産業構造を考慮すると、ソーラークッカーこそが最適な解決策であるとのこと。従来の木を伐採し薪で火をたく調理法は森林火災の問題につながるほか、女性や子供を中心に大きな労力がかかっているという背景があるようです。2017年からLions Club Helsinkiが支援を始め、ソーラークッカーのプロダクトの改善は概ね完成し、すでに1500台ほどは導入済みとのこと。これからいかに地域に根付かせていくかが課題にの一つになっているようです。
その期間、ちょうど「Design for Social Change」という授業を受けているときで世界の社会問題にアンテナが張っていたからか、授業が机上の空論に感じていたからか、友人の話にすぐに興味を持ち、詳しく内容を把握しないまま軽い気持ちでワークショップに参加することに。その時は、まさか自分が新しいNPO法人を立ち上げるとは全く想像していませんでした….。
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ワークショップで一番驚いたのは参加者の年齢層でした。Lions Club Helsinkiが主催していたためか、参加者にはそのメンバー(50代〜70代?)の方々が多く、よく開催される学生(若手)中心のワークショップとはまったく違う雰囲気でした。しかし想像以上にLionsメンバーも積極的。カタコトの英語でブレインストーミングに取り組む。プレゼンもガンガンこなす。性別・国籍・年齢などが全く気にならないほど自由に指摘し合えるフラットな関係。70代?くらいの年配の方は「ケニア人が求めているのはサウナだ!」と冗談も飛ばす場面も。日本では見られないその光景に、私は中身以上に感動してしまいました。
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「これは何か自分ができることで貢献したい!」
何をやるべきかも全く分からない状態でしたが、心の内から湧き出るものがあるのを感じました。後日、ワークショップの代表をしていた Lions Club Helsinkiの方を紹介してもらい、「Lions Club のデザイナーとして関わらせてほしい」と直談判しました。すると、数分後に返信が。
「君が共同創設者だ」。
「?」。最初は何を言っているのか分かりませんでした。しかし、後から確認すると、ワークショップに参加していたケニア人の方も、ちょうど同じ時期にこのプロジェクトをサポートしたいと申し出ていたとのこと。もともと学生主導の組織を作る構想があり、そこに私とケニア人の方がぴったり当てはまったという流れでした。正直、そんなつもりではなかったのですが、なかなかない機会だと思い、思い切って立ち上げることを決意。こうして、私は 「共同創設者」になりました。
2. ロゴに込めた思い
組織名が決まった瞬間から、ロゴを作りたいと思っていました。なぜなら、ロゴが決まることで組織に魂が宿り、自然と一体感が生まれる からです。「世界の社会問題に対してデザインに何ができるのか?」これは、もともと自分の中にあったテーマの一つです。しかし、あまりにも抽象的で、そのままロゴに落とし込むのは難易度が高いと感じました。そこで、組織の名前にもあるアアルト大学のロゴからインスピレーションを得て、組織の頭文字「ACC(Aalto University Campus Club)」をベースにすることを決定。このアイデアが生まれたことで、イメージが一気にクリアになり、さまざまな意味を統合させていきました。そして、出来上がったロゴがこちら。
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左の「A」はアアルト大学のロゴを継承し、哲学や思想、意志を表現(ただ、オリジナルのフォントは使用できなかったため、丸みを帯びた別のフォントを採用)。右のカタチにはLions Clubs Internationalのカラー(ブルーとイエロー)を採用し、Campus Clubの「CC」を上下に重ねて、「Entrepreneurship(起業精神), Worldwide(世界規模), 3 in 1(三位一体), Meaningful Impact(意義あるインパクト)」 という4つの意味を込めました。さらに、このカタチを上下左右どの方向に回転させても意味があるようにしたのは、支援の対象となる人々がそれぞれ異なる状況や環境に置かれている中で、あらゆる角度から物事を捉えなければならない という想いを込めています。
このロゴをメンバーに見せたとき、「ステッカーが欲しい!」「動画にしたら面白そう!」という声が上がり、とても喜んで受け入れてくれました。
3. 意義のある支援とは?
プロジェクトの舞台は、ケニアのカカメガ地区。この地域は、ケニアの中でも特に貧困に苦しむ人々が多いエリアだそうです。近年、首都ナイロビでは経済成長が進んでいる一方で、カカメガのような地方では電気などのインフラが十分に整っておらず、生活基盤が脆弱な状況にあります。そのため、依然として国際的な支援が求められている地域であるとのこと。
ここで思い出すのが「Poverty, Inc」という2014年に公開された映画です。
開発援助や慈善活動が必ずしも貧困問題の解決につながらず、むしろ 途上国の自律を妨げることがあるという視点のドキュメンタリー。この映画では日本を含めた先進国による一方的な慈善活動が、途上国の地元経済の成長を阻害し、「依存の連鎖」を生み出していると指摘しています。映画の舞台はハイチですが世界の数千もの慈善団体からお米や服などの日用品の支援物資が送られている映像は国際協力の素晴らしさが感じられます。しかし、この支援が原因で地元の人々は自律をする能力を失い、地域の産業が衰退し、支援に頼らざるを得ない仕組みを助長してしまっているという現実を生み出しています。「貧困は慈善ではなく、地域の人々の自律(ビジネスと経済成長)によって解決するべき」というメッセージが、この映画に込められているのを感じます。「貧しい人々が顧客になる巨大な世界的貧困産業」と言う強烈な言葉は、なかなか忘れられません。
では、どのように解決すれば良いのか。映画でも少し触れられていましたが、それは先進国が生み出した最新テクノロジーでもなく、資本主義の仕組みを導入することでもなく、現地の人々が「自分たちの手でこの街を、この国を成長させ、豊かにしたんだ」と実感を持てる支援をすることではないでしょうか。もちろん、現地の人々に直接聞いたら、求めているのはモノやお金かもしれません。そのため、現在行われているような支援も決して無駄ではなく、重要な活動の一つだと思います。しかし、長い目で見たとき、そのような支援は「役に立っているが、意義がない」とも言えてしまう。資本の力ですぐに解決できる目先の課題にフォーカスするのではなく、現地の人々が意義を感じられるデザインが必要なんだ、と強く感じました。映画の最後にチラッと映るこのポスター。それが個人的にはとても好きです。
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そんな中、前回のミーティングで、Lions Club Helsinkiの目標を聞きました。ホワイトボードに書かれたそれは以下のような言葉でした。
Most meaningful aid provider in Finland by 2030
(2030年までにフィンランドで最も意義ある支援を届ける存在になる)
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とてもいい言葉だなぁ、と率直に思いました。「Meaningful」という単語がフィンランドにとてもマッチする。最近、様々な文献や本に触れる中で脱植民地化(decolonization)という言葉をよく聞くようになりました。先進国の価値観や基準で発展途上国に導入するプロセスを見直す考え方で、デザインプロセスもより包括的で公平なものにするためのアプローチとして捉える必要性が言われています。これは単なるモノやサービスの提供だけでなく、人の思想や価値観にまで影響を及ぼすものです。今回立ち上げたNPOでも、「意義のある支援とは何か?」という視点を大切な価値観として、組織のベースにしていきたいと思っています。この活動はこれから始まっていくので、進展があり次第、また記事をアップしようと思います。
最後まで、読んでいただきありがとうございました!