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アアルトCoIDって何が学べるの?
今回は、私が所属するデザインプログラム「Collaborative and Industrial Design(CoID /通称:コ・アイディー)」について書いていきます。まだ入学して月日があまり経っていないので表面的な情報にはなってしまうかもしれませんが、現時点で分かる情報を可能な限りご紹介したいと思います。CoIDプログラムがあるデザインスクール、及びデザイン学部については以下の記事に概要をまとめていますのでご興味があればご覧ください。
1. CoIDって?
「Collaborative and Industrial Design」という聞きなれないプログラム名ですが、まずはアアルトの公式サイトでの説明を読んでみると、以下のように紹介されています(一部抜粋)。
Collaborative and Industrial Design(CoID)の研究は、社会におけるデザインの役割に焦点を当てています。学生は、産業、ビジネス、コミュニティ、教育、公共部門など、さまざまな分野でデザインの専門家やリーダー、起業家、イノベーターとして働くためのスキルを習得します。(中略)CoIDでは、人々がデザイン活動の起点であり、研究対象は、社会的な文脈やビジネスにおける協働デザインプロセス、インタラクティブテクノロジーの利用、サービスのデザインへと拡大しています。(中略)デザインイノベーションに焦点を当て、デザイナーとして、また、さまざまなビジネス領域におけるデザインや思想のリーダーとして、起業家や民間・公共部門のイノベーターとして働くための高度なスキルとともに、社会におけるデザインの役割について深い理解を学生に提供します。
上記の文章を見る限り、何か特定の対象物に焦点をあっているわけではなく、社会を俯瞰してデザインの役割を捉えているのがわかります。ただ、プログラム内の選択オプションに「Service design / Social design」 という比較的知られている言葉があるのに、なぜ「Collaborative Design」という名前をつけたのかずっと疑問に思っていたので、プログラムのヘッドに聞いてみました。回答としては「Service design をつけると範囲が狭くなるし、Social designをつけるとプロパガンダのようになる。最終的に、教授陣と話し合ってCollaborative Designという言葉をつけるようにした」ということでした。分かるようで分からないですが、思想として「Collaborative」ということに重きを置いているのは肌感として伝わりました。
その思想に関して、ある授業で扱った論文で印象に残った文章がありましたので、併せて紹介します。
Participatory Design began in an explicitly political context, as part of the Scandinavian workplace democracy movement.
参加型デザインはスカンディナビアの職場民主主義運動の一環として、明確な政治的文脈から始まった。
このようなアプローチは政治や歴史的な背景が深く関係しているようです。Participatory Design(参加型デザイン)のコンセプトは、Collaborative Designと比較すると目的と方法が少し違うらしいですが、複数の人が協力してデザインプロセスに関わるアプローチという点では共有点があるようです。スカンディナビア諸国(ノルウェー、スウェーデン、デンマーク)がこのアプローチと親和性があるというのはとても興味深いので、また機会を見てこの辺りも深掘りしていきたいと思います。
所属している学生に関しては、同じCoIDでもバックグラウンドや興味領域も様々です。プログラム名に「デザイン」と付いていても、Adobeを使えない人もいます。またUI/UX系の学生はポスターを作る課題の際にAdobeではなくFigmaで作成していたのには驚きました。ソフトウェアのスキルでの「デザイン」はそこまで重要ではなく、思考のデザインの部分で学生を選んでいたのだろうなぁ、というのを感じます。ちなみに修士の授業では各ソフトウェアの使い方などに関する授業はないので、各自でそれぞれが必要に応じて学ぶ必要があります。
2. 選べる3つのオプションと専攻科目
選択オプションの詳細を見ていく前に、デザイン修士の単位について触れたいと思います。前提として、卒業までに最低120単位を取得する必要があり、そのうち60単位が専攻科目、30単位が修士論文、残りの30単位が選択科目です。CoIDの場合は、専攻科目の中で専攻オプションでさらに3つに分かれていくので、必修を除くと同じCoIDでも授業が一緒になる人が必然的に少なくなります。選択科目はデザイン学部以外の授業も取得することができるので、私は2年目にはビジネス系の授業を受講したいと考えています。ただし、授業によっては、受講できる学部の優先順位が決まっているので、必ずしも受講できるわけではないので、注意が必要です。
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専攻オプションは以下の3つです。
Option 1: Service design / Social Design 👈私はココ
Option 2: Product design and development
Option 3: Interaction design
各オプションの特徴について、専攻オプションとして指定されている授業から見ていきたいと思います。ただし、必ずしもその授業を取らなければいけないというわけではなく、授業の時間帯や自分の興味に応じて他の専攻オプションの授業と組み合わせることも可能ですので、完全に切り離されているわけではありません。各授業で公開サイトがあるものはリンクもつけていますので、興味があれば参照ください。
(カリキュラムは2年毎に更新されるようですので、内容はあくまでも2024年-2026年のものになります。)
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Service design / Social Design
私が専攻しているオプションです。「デザイン」をかなり広範囲に捉えています。「Designing for Services」は大学のあるエスポー市と協業していろいろなサービスを考えていく授業。友人の話によると5チームくらいに分かれてエスポー市の抱える課題について、サービス案を考えていく6〜7週間のスプリント授業のようです。「Desige for Social Change」は現在受講中で個人的にはとても刺激的です。歴史や政治、社会運動、ポスト資本主義経済、再生エネルギーの転換政策まで、社会を取り巻くあらゆる事象を対象に、戦略から解決案を出すためのワークショップまで実施します。カーデザイナーだった友人が「これってデザインなの?」と愚痴をこぼしていましたが、私はこれこそが「デザイン」だと思いました。また今後、興味を持ったトピックごとに記事を書いていきたいと思います。
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Product design and development
「商品開発」に焦点を当てているオプションです。アウトプットとして具体的な「モノ」になっていくので、比較的外部からも一番わかりやすいオプションかもしれません。3Dプリンタでガンガン商品作っている学生もいます。このオプションが専攻科目として指定している「Product Development Project(通称:PdP)」では、デザイン・ビジネス・テックの学生が企業と協業して新しい商品開発をしていくアアルトの名物授業の一つです。単独のウェブサイトもあり、アルムナイ組織もあるほど。人によっては修士論文のテーマにもするらしいです。IDBMが提供している「Industry Project」を国内かつ商品開発寄りにしたようなイメージ、と友人から聞きました。私も最初受講しようか悩みましたが、商品開発が私の専攻(Social Design)と少し離れているのと、現在の授業でもかなり忙しかったので今年の受講は断念しました。PdPを受講している学生は皆忙しそうにしていて他の授業を欠席していることもあり、中にはドロップアウトする人もいました。受講する際は他の授業とのバランスを考える必要がるかもしれません。
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Interaction design
Design Thinking and Electronic Prototyping
いわゆる「UI / UX」を学ぶ際はこのオプションになります。ただこのオプションを選択する学生はあまり多くなく、CoID内でも比較的サービス・ソーシャルデザインかプロダクトの2つに分かれている印象があります。個人的にはこの辺りは大学というよりは企業の中で実践の中で鍛えていくイメージがあったので、具体的にどのようなことが学べるのかは興味があります。また専攻している学生に話を聞いて、何か分かり次第情報を更新したいと考えています。
また、その他にも特定のオプションが指定しているわけではありませんが、以下の授業も専攻オプションとして選択が可能です。40単位になるまで各自のスケジュールと興味に合わせて組み合わせていくことになります。
Experience Design Project
Research and Inspire
Strategic Style Management and Exploration
Introduction to Algorithmic Design
Programming for Designers
Design for Government👈興味あり
3. デザインとは..?
まだ入学して2ヶ月ではあるものの、「デザイン」という言葉の範囲が広い、というよりも捉え方が違うのを感じています。ある授業で「モノが単独で進化することはない」という言葉を聞き、ハッとさせられました。その対象は自転車の車輪のことでしたが、1800年代からの車輪を見ると技術が進化したのではなく社会が変わった結果としてモノが進化(変化)したのがわかります。対象だけを見て設計するのではなく、社会との関係性によって対象が成り立っているのを改めて実感した瞬間でした。
(大学時代の教授からも教わっていた内容だったので、当時はとても先進的なことを学んでいたんだと改めて感慨深く思います。)
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そう考えると、デザインという言葉が「社会的意義や意味を帯びた行為」、「創造的な取組みや社会的プロセス」「人や社会との境界線や関係の再設計(不都合をなくす)」というような意味合いで使われているのを感じます。対象物ばかり見ていても、人や社会、そしてそれが織りなす社会システムを理解しないとモノやサービスとの関係性をうまく設計することはできません。また対象範囲もモノやサービスだけでなく、社会インフラ、制度、政策、社会課題なども入ってきます。そして時代や社会も変化するので、現在だけではなく将来的な予測も踏まえた上での考察が必要です。そして、その解決策がモノになるのか、サービスになるのかは二の次、三の次。社会に存在するありとあらゆる対象物が「デザインされている」または「デザインされていない」ということを実感する日々です。
まだうまく自分の言葉にできていませんが、人や社会との関係性をなめらかにするような社会システムのデザインいついて、これからも探求していきたいと考えています。
今回は、CoIDで学べることの概要についてまとめてみました。いわゆる「デザイン」を多面的に捉えているためとても奥が深く、また俯瞰して社会を見る必要があるので、手を動かすというよりはかなり頭を使うイメージです。人によっては相性の良し悪しがあるかもしれませんが、個人的には自分にかなりマッチしているので、これからも学びを深めていきたいと思っています。
アアルトで扱うデザインの意味合いの輪郭ができるだけクリアになるように、印象に残った授業やトピックを記事にしていき、少しでも皆さんに共有できたらと考えています。
最後まで読んでいただきありがとうございました!