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金利平価説(足元の相場)


前々回(金利平価説(その内容))、前回(金利平価説と実際の外国為替相場)に引き続いて、では最近の足元の相場はどうなっているのかを確かめてみる回です。

近年では金利平価説からの乖離がある。というのが前回の結論でしたので、今回のタイトルはタイトルとして適切ではないようにも思いますが上手く思いつかなかったのでこのようになりました。


おさららいとしてポイントの図表を2枚再掲します。


(表①)金利平価説が成立している場合の先物為替の決まり方


(表②)実際の3ヶ月先物の金利平価説による理論値との乖離状況


(表①)は、現在の為替レートと金利に応じて、(現在における)将来の先渡レートが定まるというものです。

円資産の投資家が、現在のスポット・レート(105.00円/ドル)でドルに交換してドル金利を受け取っても、現在に置いて将来1年後に交換することを契約する(先物為替)レートは102.94ドルなので、1.02×102.95=105.00円になり結局得することは出来ない。一方で、ドル資産の投資家にとっても、現在の1ドルを105円に交換して1年後の先物為替レート102.95円でドルに戻しても1.02ドルになり、ドルで持ち続けていた場合を同じになります。

※なお将来の交換を現在時点で決める具体的な取引のやり方としては為替先物、為替スワップ、為替先渡(フォワード)などありますが、まとめて「先物為替レート」と表現します。


それでは実際の足元の状況を確認します。

リアルタイム配信サイト(https://www.barchart.com/forex/quotes/%5EUSDJPY/forward-rates)にょる8月26日21:30分頃の状況をチェックします。


■ 現在の為替相場(直物/先物)と金利の状況

① 米ドル円1年

表の見方としては為替レートの列は現在時点の、直物と先物のレート(気配値の仲値)です。金利の数値は、1年物の日本国債、米国債の利回りを表示しています。

1年後の列は円又はドルとして日本国債又は米国債で運用した場合の円貨又は米ドルによる1年後の金額を計算したものです。1年後(先物レート換算)の列は、先物為替レートでの1年後の換算額になります。

日本円の投資家が105.89円を1ドルに換えてドルで運用する場合、1年後には1.0174ドルになりますが、これを1年後の先物為替レートで日本円に戻すと15.29円になる。アメリカの投資家が1ドルを105.89円に換えて円で運用する場合、1年後には105.60円になりますが、これを1年後の先物為替レートでドルに戻すと1.0204ドルになる。という表です。

CIPレートは、「金利平価説が成立するとした場合の先物為替レート」です。


対米ドルに関しては、先物為替レートがCIPレートより円高になっているのが分かります。その結果として円資産の投資家(主には、日本の金融機関など)がヘッジ付きでドル資産に投資しようとする場合には、金利差以上のコストが必要になります。これを「ヘッジコスト」と呼びます。

直近の1年先物の状況ではこのヘッジコストは概ね年率0.3%程度でした{(105.29-105.60)/105.60}≒0.3%ので、(表②)の乖離状況の2015年ー2016年の水準と似たような水準です。


② ユーロ円1年

次に、円対ユーロの1年を見ます。金利の指標としては日本国債とドイツ国債でしてみます。

どちらもマイナス金利で1年間の運用をどちらの投資家がどちらの国債でしてもマイナスになることは変わりませんが、金利差に対して先物レートの円高の度合いが小さく、ユーロ資産の投資家にとっては円で運用した方がまだマシな状況にあります。ユーロ円のヘッジコストも、0.3%程度で、ドル円と同等の水準です。

このことから、国別の信用リスクや先物取引にかかる銀行間のリスクを考えないのなら、現時点では、ドイツ国債よりは日本国債の方がヘッジコスト込みの利回りは高い。と言えます。

フランスやイタリアなどの国債金利でも分析すること自体はできるものですが、欧州でもっとも低金利となっているドイツ国債とその他の国債の利回りの違いは信用リスクや市場性(流動性)によるものと考えられ、金利平価説の枠組みとは離れるのでここではしません。


■ まとめ

✔ 米国やドイツのドル・ユーロ資産の投資家は、為替ヘッジをしても、同じ年限の国債にするなら、米国債やドイツ国債よりも日本国債に投資するほうが、自国通貨建ての利回りが高くなる。

そのような状況を現象面から解説しているのが、前々回の冒頭で引用したBloombergの記事になりますね。




原因分析の論文レビューなどは可能ならやってみたいものです。



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