【小説】雄猫ぶーちょの生活7 バスタブで泳ぐ
ぶーちょは、水が大好きである。お湯も冷たい水も、流れるのを見たり、手でかき回したりするのが好きである。飼い主の入浴に同行し、浴室で遊ぶのは、一日の一大イベントだ。
ある日、ぶーちょはいつものように、飼い主のお風呂についてやってきた。そして、閉められたバスタブのふたの上に悠然と座り、入浴が始まるのを待っていた。飼い主はぶーちょのために半分だけバスタブのふたを閉めたままにして、そこで見学できるようにしようと、ぶーちょを奥のほうに移動させようとした。
だが、ぶーちょはなぜか場所の移動を拒否して暴れた。その時、ぶーちょの後ろ足がバスタブのふちですべった。
ぶーちょはおしりからバスタブのお湯に落ちた。あっという間の出来事だった。湯船の中でぶーちょは顔を上げ、犬のように泳いでいた。十秒間ほど。
それから、つるつる滑るバスタブのふちに必死でよじ登り、浴室から逃げ出した。
もうこれでぶーちょは二度とお風呂についてこないだろう、と飼い主は確信した。
ぶーちょと一緒にお風呂に入るのは、それなりに楽しかったが、それ以上に面倒なのだ。
ぶーちょは流れるお湯と遊ぶのが大好きなので、飼い主が頭や体を洗っているときも、ぶーちょは床に降りてくる。だから彼にシャンプーやせっけん液がかからないよう、気を付けなければならない。間違ってぶーちょの体に大量のお湯をかけないよう、しなければいけない。普段の倍、時間がかかる。
ぶーちょが水に興味を失って、ああ、よかった。飼い主たちはほっとした。
だが、ぶーちょは翌日も浴室に現れた。ぶーちょの辞書に「撤退」はないようだ。