殺意が活かされた話し
突然だが
皆さんは本気で人に『殺意』を覚えたことがあるだろうか?
あいつムカつくな…レベルから
どうにかしたいけど自分が犯罪者になるのも悔しい…など色んな思いがあるのが殺意だと思う
また相手によってもやり方や思いの重さも変わってくると思うが
(ここまで皆さん一度はある前提で話し進めている笑)
私の場合その『殺意』を
合法的に人にお披露目して観客の怒りや興奮を買い
結果「よくやった」と褒められたもの
それが女子プロレスだったのだ。
(今現在リアルタイムの女子プロの世界でのルールはもう分からないけれど)
女子プロレス、私の初めて所属した全日本女子プロレスでは1秒でも先に入門したものが先輩となり
明らかに○年組オーディションなどで括られた同期でもなければ、とにかく先に入った者が先輩となる。
殺意を覚えた人
2度ほど全女No2のオールパシフィックという白いベルトを賭けて闘った人物。
彼女は私が入門した時は先輩だったけれど
辞めてまた入ってきたりして今度は私の後輩という立場に
全くの後輩という感じではないのでやりづらさや懐かしさや不思議な気持ちを感じつつ、私と同様長身で同い年(なんなら誕生日まで近く)だったこともあり、
会社から正式にタッグを組むように促され
お揃いのコスチュームを作ったり、
〝長身で生意気でマイクやインタビューで大口を叩く、上から潰されてもネズミのようにしぶとく生き残る〟
的な意味合いでビッグマウス(mouthとmouseとかけている)というタッグ名で全日本タッグ選手権を奪取したり、
(今思うと厨2感満載www)
雑誌の取材を受けたり、全日本シングル選手権で闘ったり、遊びに行ったり、公私共に色々なことがあった。
同期のいない(直ぐに辞めてしまった)私は後輩の突き上げに恐れを感じたり、またある事ないこと松永マジックに嵌ったり(笑)人間不信になったり
彼女を含め数人で複雑な人間関係で揉めに揉めて
話し合いという名目で集まったけど
頭に血が昇った私は初めて応接室に置いてあったガラスのデカイ灰皿を彼女に投げつけたのを今も覚えている。
プロレスの先輩と4人組でCDデビューし、
芸能活動のほかに試合前はリング上で歌を唄い、試合もこなし、(こなせていたのかは不明)
久々の全女横浜アリーナ大会を目前としていた東北巡業のある日を境に何かがぷつりと切れてしまった私は逃げて(失踪)全女を退団した。
正直その時のことはよく覚えていない。
その後しばらくプロレスを離れ実家でぼーっとした日々を過ごすなか、
堀田さん(堀田祐美子選手)や憧れだった下田さん(下田美馬選手)らに新団体設立のメンバーに声をかけて頂き
先ずはアルシオン(ルチャや関節技も使った全女とは一線を画すロッシー小川さんの作った華やかな団体)と抗争し、AtoZという新団体がここで設立、参加。結果吸収合併のようなものだった。
復帰をし、
アルシオン式の練習(全女の根性論練習とは質の違うもの)を取り入れ、のびのびとプロレスをし(下手だが)
同期が出来たり新たな寮生活、全女ではなくなったのでギスギスした人間関係も3禁(酒・タバコ・男)もなく、ビールの味も覚えたような頃、
全女では納見佳容さん(3年離れているが私のひとつ上の先輩、大変お世話になった伝説のアイドルレスラー)の引退により空位になったオールパシフィック選手権を
トーナメント形式で開催するとのことで
なんと私もエントリーされることになった。
メンバーは武藤裕代さん(他団体先輩)
サソリさん(藤井巳幸→極悪同盟に加入し改名、先輩)
例の彼女、私の4名
2回勝てばベルトは私のモノに
当時の全女は
逃げた、失踪して出戻った人間に人権はなく(笑)
基本無視、しばらく謝り続ける、いつ終わるか分からない冷遇に耐えることが恒例で
私は全女に入り直したいわけでは無いけれど、
ロクな辞め方しなかった出戻り女がうちの至宝を奪いに乗り込んできやがった…というシチュエーションとなり
しかし
錚々たる先輩が巻いてきた白いベルト
なんなら『アイドルレスラーのためベルト』のようなイメージのある、NO.1の赤いベルトよりも興味や憧れのあるもの
絶対に諦めたくなかった
まさに背水の陣としか言いようがないシチュエーション
トーナメントの日が近づくにつれて私の覚悟とテンションも上がっていき
謎に全女の静岡の地方大会に私服で現れて
(全女を退団してから初めて西尾が全女に現れた!という状況)
サソリ(以下敬称略)と彼女を挑発しに乗り込み
マイクで暴言を吐き、殴り合いをして取り押さえられて会場を退場させられたり(爆)
あらゆる雑誌のインタビューでも思いの丈を放ち
前日は美容院に行って髪を切ったりし、いよいよ当日を迎えた。
後楽園ホール。
控え室。
挨拶をして返してくれる先輩、無視する先輩。
80%の人達、空間から放たれる私に対する憎悪の波動。
正直今思うと会場に入る〜その空気に慣れるまでが試合よりも怖かった。
背水の陣。
1回戦はサソリ戦
極悪同盟になってからのサソリとは初めて対戦
ダンプさんから指導も頂いているようで
何ならボクシングもやっている
試合では極悪らしくなんと台車を投げつけてきたり(爆)
ガチにボクシングのパンチで殴られまくったりして
憎悪を試合に乗せて放って来たけれど
なんとか勝つことができた。
(ここでも「そんなにボクシングやりたいならプロレスなんて辞めちまえ」とか言った記憶がある)
そして決勝戦。
私はこの時のために
勝ち進めるかどうかも分からなかったけれど
新しいコスチューム(バーで可愛がってくれていたお姉さま3人組からのプレゼントだった)
テンガロンハット
Vivienne Westwoodのジャケット
〈自分の在りたいオールパシフィック王者像〉
たかが数分の入場シーンだけど
私は『お色直し』をして挑んだ。
リングに入ろうとする私を阻止しようとした彼女に
怒鳴らずに普通の音量で
「退け」と言ったのも覚えている。
人間て怒りや憎悪、緊張、あらゆる感情が振り切れると一周して冷静になるのだ。
『プロレスは怪我をさせるのは二流』
『プロレスは相手あってのもの』
分かっている。
それでも殺してやりたいぐらいの感情が湧く相手だった。
私も彼女も試合運びや内容でいったら上手いとか器用ではない。
はっきり言って私は華と勢いと運と顔芸であそこまで行けたと思っている(本気で)
似たように見えるけど
彼女は太陽や陽のエネルギーいっぱい
『ウチら』ってノリでファンのみんなは運命共同体!みたいなタイプで(女性ファンが多い)
私は月や陰のエネルギー
人と群れるのが嫌い、雑誌のインタビューで
平気で私を応援したいヲタクは応援してください みたいな事を言ってしまう人間だった(男性ファンが多い)
でも
ずっと全女時代可愛がってくれていたパッション!でおなじみの高橋奈七永選手(現マリーゴールド所属)が
『西尾だって本当は熱いよね 青い炎みたいだよね』
って言ってくださって
理解してもらえる人が居たことがすごく嬉しかった。
また、
彼女と私それぞれ応援してくれてるファンの方々の棲み分けがあり
彼女=六本木のニューハーフのお姉さま方(+ほぼ女性ファン)
私=新宿二丁目のゲイバーのオネエさま方で(+男性ファンたまに女性ファン)
『六本木VS二丁目の全面戦争よ!!!』
とか言ってもらったのも聞いて
ああなんかそこまでこの試合想ってもらえてるんだなと本当に有難い気持ちになった。
試合は前半はオーソドックスな全女スタイルだけど
技がシンプルな分激しさや憎しみが伝わってきたし、伝えた。
人気も二分
会場の盛り上がりもしっかり聞こえている
ヒートアップし、場外戦になった
客席に飛ばされ、イスで殴られ、散々痛めつけられた。アドレナリンが凄すぎて、全く痛みを感じない興奮状態、マリオの無敵みたいなゾーンに入っていた。
形勢逆転したタイミングで
私は後楽園客席南側の階段の上まで連れていき
階段から転がすように蹴り落としながら下まで降りてきた。
情けなどこれっぽっちも無かった。
リングに連れ戻し、終わるぞーだか見とけよーだかアピールした時に、アナウンサーの方に
『鬼の形相 西尾美香!!!』と言われたのが
後から映像を見てちょっとだけ恥ずかしかった。
その後は
お互いの得意技を出したりしてもなかなか決まらず
お互いグーで顔面を殴りあったり死闘となったわけだが
最後は必殺技のタイガースープレックスで私が第44代オールパシフィックチャンピオンの座に就くことができた。
これ以上のアウェーある?ってくらいのアウェーの中、
出戻り娘が奪ったベルトの試合だというのに
リングいっぱいに私のイメージカラーの紙テープが投げ込まれ
夢のような気持ちだった。
ベルトとトロフィーと共に撮影タイムの時、
腹いせに1回戦で負けたサソリにトロフィーを壊された。
その後フリーになり、大怪我を負い、
プロレスラーとしての選手生命は絶たれてしまったけれど
全女では叶わなかった
『ヒールになりたい』という夢を
OZアカデミー主宰の尾崎魔弓選手に叶えてもらうことになり、息子を授かり引退するまで、迷い悩むことは沢山あったけれど
幸せにプロレスに携わることができて、楽しくて楽しくて仕方がなかった。
そんな私自他ともに認める西尾美香の選手生活のベストバウトが
このオールパシフィック選手権の決勝戦。
殺意を昇華できた
ただの人間同士のイザコザだけでは見せられない
松永マジックにかかった普通じゃないものを
観客を怒らせ、泣かせ、大喜びさせて
人々の記憶に残るものを創りあげることができた。
『殺意』を昇華させてくれた女子プロレスというスポーツに
異様な空間を提供してくれた全日本女子プロレスに
『殺意』を抱かせてくれたHikaruに
私の人生に大切な思い出と記録を残してくれたこと
心から感謝をしています。
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