生きる#11 わたしが狩猟免許を取った理由
わたしは、山で現場仕事をする時はもちろん、街中で猪を使った商品をPRするときも、オレンジのベストを着て、オレンジ帽子を被っています。
オレンジベスト=狩猟ベスト
オレンジ帽子=狩猟帽
なのですが、初めて見る人にとってはなかなかピンと来ないものです。
(交通整備員やただの派手好きに間違われたことも)
狩猟免許を持っていることを認識してもらえると、次に
「何で猟師になろうと思ったんですか?」
とよく聞かれます。
この質問、自分の立場はさておき、わたしも気になって周りの仲間や先輩に聞くことがあります。
そこから、わたしの独断で分類すると、
①自分で獲物を捕って食べたい
→自給自足系。わな猟師・銃猟師が多い
②自分の農地を守りたい
→被害対策系。わな猟師多い
③銃の技術を磨きたい
→射撃系。銃猟師多い
その他にも、認定事業者や調査捕獲・研究など、職業柄狩猟免許が必要だという方もいますが、わたしが聞いてきた中では上記の3パターンが大多数でした。
①と③など、複合的な目的の場合も多々あります。
さて、肝心なわたしは、
はっきり①〜③のどれか一つということではなく…
少なくとも、「狩猟免許を取ろう!」と思った段階ではどれも当てはまらない。
②が強いような気もするけど、
「自分が大切に育てた野菜がやられて悔しい!」
など動物に対して悔しい思いもしてなければ、 被害に遭って困っている方々に出会ったのは、実際にはもう少し先の話。
では、何故?
わたしの場合、
狩猟の世界へ入ることへの覚悟
つまり、
狩猟を本気で学ぶ姿勢を表すため
というのが一番の理由です。
わたしの実現させたい世界。
それは、このサイクルを滞りなく回すことです。
※地域おこし協力隊2年目の活動報告のときの資料
我が町には、幸いなことにそれぞれの立場のプロがいます。
しかし、視座を高く持ち、それぞれのプロを繋ぐ人はいませんでした。
サイクルを回すにはその存在が必要だし、もしいないのであれば自分達がやろう。
しかし、偉そうに口だけ出すようなことはしたくなかったので、実際それぞれの現場に入り、プレーヤーになることから始めました。
これは、わたしたちの会社としても大切にしているマインドでもあります。
猪に関わる一番最初のきっかけは、地域おこし協力隊として地域の特産品である猪肉の商品開発・販売を行ったことですが、
「そもそも何故猪を食べるのか?」
という疑問から、川下から川上に遡っていくと、そこにいたのは山を熟知している猟師の先輩方でした。
上のサイクルを回すために、他にも勉強することはたくさんありましたが、
・猟師の先輩方が持つ知識や経験がとても重要である点
・先輩方が想像以上に高齢である点
このことから、まずはこの世界を深く知ることを優先しようと判断しました。
そして、先輩方と同じ土俵で話をするためには、同じベストと帽子を身に付けていることがマスト。
特に、狩猟の現場は古くから男性社会です。
わたしのような、女性で若手、は異例の存在。
気まぐれな興味本位で来ているのではなく、しっかりこの世界を学びたい、という意思表示のために、敢えてオレンジベストを着ていた部分もあります。
一番最初にわなの見回りと猪の解体を見学させてくれたのは、大先輩Mさんでした。
「箱わなの餌やりを見学させて下さい!」
その頃はまだ狩猟免許も持たず、地域おこし協力隊が何者かも理解されてなかったと思いますが、快く受け入れてもらったことをよく覚えています。
何度か猪の解体に呼んでもらって手伝わせていただいたり、狩猟に関する昔話も聞かせていただいたり。
Mさんは80代という大ベテランですが、考え方の柔軟性や新しいことを取り入れる姿勢は誰にも負けません。
その後、わたしが狩猟免許を取ったことで、共通言語が増え、Mさんが周りの仲間たちへ我々のことを紹介しやすくなったように感じました。
Mさん自体はウェルカムでも、やはり猟はチームで動くこともあり、チームメンバーの理解を得ることも必要です。
何度となく、隣で猪の捌き方を見させていただき、実際にやらせてもらったりしましたが、なかなか上達しませんでした。
「まぁ数こなすことだわね」
失敗して落ち込むわたしに、Mさんはこう励ましてくれたものです。
当初は
「見に来るか?」
という電話が、
「猪もらってごさんか(もらってくれないか)?」
という表現に変わり、猪を丸々一頭引き受けて捌くようになりました。
猪を引き取りに行った時も
「体がエラい(だるい)から助かったわ」
とお礼を言われることも増えました。
どの世界も同じだと思いますが、その後3年間で100頭近く捌いていると、だんだんとスムーズに素早く処理できるようになってきました。
そんな中、先日久しぶりにMさん達先輩猟に解体を見てもらう機会がありました。
いつもはスムーズにできるはずが、なんだか緊張して上手くいかず。
しかし、
「女性でここまでやる人は見たことない。たいしたもんだ!」
という言葉をいただきました。
Mさんは途中病気で入院され、そのタイミングで掛けてたわなも減らされたとのこと。
「もう安心して(猪を)任せられるわ」
という言葉に、褒められた嬉しさとここ数ヶ月で急激に歳を重ねたMさんの姿に、密かに涙が出そうになっていました。
まだまだMさんと一緒に活動させてもらいたい…
猟師の世界は80代も現役、60代で若手と言われています。
そして、3年間で市内各地域をまわらせてもらった中で、Mさんのような各地域の山を守る先輩方がたくさんおられることが分かりました。
その方達の技術や知識はもちろん、生き物や自然、地域に対するマインドは、机上の勉強だけでは学べません。
そして、脈々と受け継がれた狩猟の歴史・文化の一片をリアルに体感でき、これがとても面白く、奥深いのです。
猟師の先輩方の山を歩く姿は本当にかっこいい。
わたしの拙い語彙力で伝えきれない、猟師の方々の空気感、是非一緒に肌で感じてもらいたいです。
猟師になりたい!と思うきっかけは、①でも②でも③でも、正直どれでも良いと思います。
ですが、狩猟という共通の活動を通して、この先輩方のマインドを一緒に引き継ぎ、次に繋げていける仲間が増えると嬉しいな、と個人的に思ってます。