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掲載は未定なれど準備はしておくなり

念願のブツ、本場向けに英語で書きおろす機会がもしかしたらあるかもしれないし、いつものぬか喜びに終わるかもしれないし…というところです目下。
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私の希望としては「戦メリ」音楽論を前編、そしてこの映画の音楽論を後編としとうございます。

書き溜めたものも少なからずあるし ⇩


「戦メリ」サウンドトラックを貫くのは二つの東洋音階でした。

「末代皇帝」は三つです、三つ。

これに気づけたひとを私は知らない。いろいろな方の分析に目は通しました。どれも私に「負けた~」と言わせるようなものではありませんでした。

作曲者そのひとを巻き込んでの楽曲分析も、こんな有様です⇩

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中華天子、歴史の大波にいつも揺さぶられる、毅然としながら怯え続ける、まっすぐ歩き出そうとすると必ず横から波が襲っていく、天に羽ばたこうとすると地上に引き戻される、母なる子宮から逃れられない少年、雄々しいヒーローにはけしてなれない運命、中華王朝の黄昏…

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こうしたフレーズが、作曲時に龍一教授の脳裏にあったと想像します。(「戦メリ」のときの作曲スケッチから推理)

中華王朝の最後の王のテーマだから東洋音階、歴史に揺さぶられる様は転調につぐ転調の連続で、紫禁城という母胎は短調トニック和音、天を仰ぐ様は短調トニックを司る完全五度上昇音程、長調トニックとドミナントセヴンス和音は徹底忌避、旋律もメジャー和音構成音をけして形成しない、転調の連続の末に無調より元の調に滑り落とされることで子宮への引力そして抗えない運命、エンパイア(男)になれないまま朽ちた大中華王朝(女)をマイナー・ドミナント和音での締めで表現…
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以上、プロフェッサーの右脳⇔左脳フィードバック神経ケーブルのなかを超高速でかけめぐった電気信号をことばにしてみますた。


本人のことばを信じるならば、わずか二週間でサウンドトラックを作曲&録音したそうです。東京で作曲・編曲作業を一週間、その後ロンドンに飛んでベルトルッチと議論して、シンセ不可すべてオーケストラでやっとくれということで一週間かけてアヴィ・ロードのスタジオで収録。

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フィルム編集との音楽すり合わせ作業についいぇは相棒の編曲者をロンドンに残して、彼自身は東京に戻って次のライヴ準備で目を回すという日々だったとか。

デイヴィッド・バーンやスーソンとはどういう風に担当箇所を分け合ったのか(というか監督から割り振られたのか)は、あまり資料も記録も発言も見つからないでいますが、当時の日本の音楽雑誌によると、龍一が用意した全44曲をモチーフにバーンが新たに曲を用意する手はずだったのが、最終的には完全オリジナルになったのだとか。

バーンによる曲はOPと、大半は紫禁城時代のシーンで聴かれます。どこかおとぎ話めいた曲です。OPで「はじまりはじまり~」な始まり方をしています。

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劇中曲としてはこんなのがあります。
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China Boy
作曲:Dick Winfree、Phil Boutelje
リリース年:1922(アーノルド・ジョンソン楽団)

『China Boy』は、ジャズのスタンダードナンバーです。ヴォードヴィルショーや映画のサントラで使われ、多くのアーティストがカバーしています。

天津の租界。ダンスパーティの最中に、蒋介石が上海を制圧したとの知らせが入り、溥儀の顔から笑顔が消える。そして甘粕(龍一!)に促されパーティ会場を後にする。1927年。(史実では甘粕はここにいない、いるわけがないのですが…)

史実とそわないといえば、この歌。パーティ席上で溥儀がかっこよく歌い上げる。♪ Am I blue ♪

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1929年発表のこの歌を、上海クーデター(1927年4月12日)の頃にどうして溥儀は知っていたのかな?
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Am I Blue
作曲:Harry Akst & Grant Clarke
リリース年:1929年(エセル・ウォーターズ)

「Am I Blue」は、ジャズのスタンダードナンバー。1929年の米・ミュージカル映画『On with the Show!』のオリジナルサウンドトラックで、同年リリース。


三人目の作曲家・蘇 聡(スー・ツォン)は、ミュンヘン音大講師をしていたとき「ラストエンペラー」の企画を聞きつけて、親のコネでベルトルッチに自分を売り込んだのだとか。(一番右の方)
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劇中で彼の曲が聴こえるのは、私が確認できるのは一か所のみ。紫禁城にイギリス人家庭教師を迎え入れて昼食を共にするシーンで聴こえてきます。中国楽器によるいかにもなチャイナ音楽。皇帝の昼食時には実際にこういう曲が演奏されていたのかなーって風の作り。


龍一サウンドに話を戻すと、溥儀のテーマと同じく転調が繰り返されるものとしてレイアのテーマがあります。
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ただこれ長調なんですよ。短調と思わせて実は転調連続の長調。彼女はいろいろ翻弄されるけれど志はけして捨てていない、事実勇敢で気の強い姫様です。

溥儀のテーマとどこか似ているものとして、これまた姫様のテーマ曲ですがこんなのがあるし。


以上、ブツに取りかかるためのウォーミングアップ代わりに、思いつくまま綴ってみた。


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